「いかに自分たちの農産物にも地域にも有利になるような付加価値をつけて販売できるかをめざしている」――。そう笑顔で語るのは新潟県弥彦村にある㈱伊彌彦の竹野勝行代表取締役(51)。竹野代表は、自ら代表を務める (農) 第四生産組合などの農業法人や地域と連携した農産物の販売と特産品の開発などに取り組んでいる。
稲作を広め、越後文化をつくりあげたといわれる天香 山命を祀る越後国一之宮の彌彦神社がある弥彦山。その麓に伊彌彦はある。同社は、弥彦村内の第四生産組合、サンファーム大戸、アグリさくらの三つの農事組合法人が共同出資し、2019年に設立。各法人で生産した米や小麦、大豆などの検査・販売や農業機械利用組合の事務局などを行っている。
設立のきっかけは、3法人がそれぞれJGAP認証を同時に取得したことだ。各法人の過去の記録の継続性を確保しつつ、作業を連携して効率的に取り組むため、可能な範囲で共通のルールや様式などを取り入れて、17年5月にJGAPを取得した。それを契機に同年12月「神米会」(事務局=第四生産組合)を組織し、村のブランド米の伊彌彦米の要件に独自の基準を加え、米の販売を開始した。
その後、神米会が任意組織であることや今後の販売量や販路の拡大、弥彦村の農業と観光と地域の発展を見据え、同社が設立された。
同社では、農業と観光と地域をつなぐため、弥彦産農産物の販売・特産品の開発に注力している。
代表的なのは、伊彌彦米と伊彌彦醤油だ。
伊彌彦米は、当初は村のふるさと納税向けブランド米として生産が始まったが、18年には新嘗祭の皇室献上米にも選出。同社では、電子レンジで調理可能な伊彌彦米のパックご飯を開発・販売している。
伊彌彦醤油は、24年に販売を開始。3法人が生産した大豆と小麦を使用し、「弥彦産100%の原料」にこだわり、製造している。同商品は、お土産として好評で、セレクトショップなどで販売。道の駅国上では人気商品トップ10にランクインするほどだ。25年からは、弥彦村特産の原木椎茸「やひこ太郎」を使用した新商品のだし醤油も販売している。
また、同社は観光協会や第四北越経営者会などにも所属し、他業種に向けた弥彦産農産物のPRにも取り組むほか、行政主催のイベントにも積極的に協力している。
竹野代表は「これまでの直売会などのノウハウを活かし、3法人以外の参加者も募り、直売所の開設も含め検討したい。もっと弥彦村の農業と観光を盛り上げたい」と今後の展望を熱く語る。

病害虫被害を減らす防除DX(デジタルトランスフォーメーション)サービスを提供する㈱ミライ菜園(愛知県名古屋市、畠山友史代表取締役)は、AIを活用し病害虫発生を予測する防除DXアプリ「TENRYO(テンリョウ)」を開発した。
「AIにより正確な発生予測を農家に提供できれば、最適なタイミングで必要最小限の農薬だけを使用できる」がコンセプト。野菜や果樹、水稲病害虫の予防的防除を支援し、季節外れの高温や長雨など、イレギュラーな条件下でも高い精度を発揮する。
TENRYOはスマートフォンやタブレットで使え、管理画面はパソコンで利用できる。①毎日、病害虫発生を予測②発生マップによる可視化と記録・共有③防除履歴に基づく適用農薬の推奨表示――などが特徴だ。
病害虫からの被害を防ぐには、適切なタイミングでの農薬散布が効果的だ。しかし、近年は気候変動の影響が深刻で発生予測が難しく、これまでの勘と経験だけでは通用しにくくなっている。
TENRYOは過去20年分の気象データとアプリ利用者から集まる発生履歴を照らし合わせ、病害虫の発生を6日先まで予測する。キャベツやブロッコリー、タマネギ、トマトなどのほか果樹にも対応する。
また、イネカメムシの発生危険度も予測。温度や降水量、日照時間などの気象データと過去の発生履歴を調べ、果樹カメムシの予測モデルで培ったAI技術を応用した。
愛知県の実証試験でのイネカメムシ予測では、AIのアルゴリズムが7月上旬にかけて発生リスクの急上昇を検知したため即日、アプリの利用者に警戒や防除を促すプッシュ通知を発信。同月、愛知県農業総合試験場環境基盤研究部病害虫防除室の発生予察情報(注意報)が発出され、イネカメムシの発生数が7月上旬としては過去10年で2番目に多く、通知のタイミングと一致し、整合性が確認された。
個人農家が利用できる「TENRYO(個人農家版)」を7月にリリース。使用量は月990円(税込み)でWebからダウンロードできる。圃場の病害虫発生状況をアプリで月に5回報告すれば無料になる。

⑴農政の基本となる農地法が制定される前年、1951年(昭和26)に、農業委員会が、創設された。
それまでの農政を担ってきた三つの委員会を統合して、創設されたものだ。一つ目は「農地委員会」で、歴史上例のない大規模な農地改革を驚くべきスピード
地域おこし協力隊の成果というと、起業や新商品の開発、観光客の増加など、目に見える成果が注目されることが多いと思います。しかし、地域づくりの現場では、それ以外にも大切な変化があります。それは、地域の人たちの意識に変化が始まっていくことです。
富山市農業委員会(長谷幹夫会長、71)では、市独自の農地マッチングの仕組みを構築した。農業委員と就農希望者の話し合いから生まれたアイデアで、農地を使いたい人、農地を使ってほしい人などの登録者数は徐々に増えているという。
同市農業委員会が仕組みづくりを進めたのは、「農地と人のマッチング事業」だ。農地の「利用希望者」と「提供希望者」の間を農業委員会が仲介する。
利用希望者は、希望地域、耕作する作物・栽培方法などの条件を登録する。提供希望者は所在地や面積、農地の提供方法などを登録。委員会は、進入路や水路、農地の現況といった営農環境も確認し、全ての条件を精査する。条件が合えば双方に情報を提供し、直接交渉をしてもらい、お互いが納得すればマッチングが成立する。その後は、農地法3条、または農地中間管理機構法の手続きを進める形だ。
同事業誕生のきっかけとなったのは就農希望者からの声だった。県の就農準備校である「とやま農業未来カレッジ」の研修生と農業委員が2025年の夏、意見交換会を開催。現在の日本の農業では、すぐに農業を始めたい就農希望者が農地を確保しにくい、という現状が浮き彫りとなり、「農地を使いたい人と、農地を使ってほしい人をつなぐ仕組みが必要ではないか」という考えが生まれた。同市農業委員会ではすぐに着手し議論を重ね、25年末に形となって同事業がスタートした。
同事業には今年8月時点で7件の利用希望と18件の提供希望が寄せられている。登録者数は増えており、交渉も始まっているという。
課題も見えてきた。同市農業委員会の担当者は、「『すぐに農業を始められる』『現在も耕作されている』『草刈りなどの簡単な手入れですぐに利用できる』などの農地を求める利用希望者に対して、高齢化や離農などで耕作できなくなった農地の管理や譲渡を希望する提供希望者との間で隔たりがある」と分析する。
課題が浮かびあがる中、同市農業委員会では、農地を探す就農希望者と離農や規模縮小を考える農業者の双方が、より相談しやすい仕組みにし、地域農業の担い手確保につなげたいと考えている。「求められる農地と提供される農地の条件を正確に把握し、マッチングにつなげたい。農地の現況や所有者の意向が変わることもあるため、適切に登録情報を更新していかなければならない」と担当者は語る。
長谷会長は今後の取り組みについて、「新規就農者には今まで培った経験やこれから吸収する農業の知識を活かし、農業者として成長してほしい。本事業を利用してもらい相性が良い農地が見つかれば」と期待を込める。



















