富山市農業委員会(長谷幹夫会長、71)では、市独自の農地マッチングの仕組みを構築した。農業委員と就農希望者の話し合いから生まれたアイデアで、農地を使いたい人、農地を使ってほしい人などの登録者数は徐々に増えているという。


 同市農業委員会が仕組みづくりを進めたのは、「農地と人のマッチング事業」だ。農地の「利用希望者」と「提供希望者」の間を農業委員会が仲介する。


 利用希望者は、希望地域、耕作する作物・栽培方法などの条件を登録する。提供希望者は所在地や面積、農地の提供方法などを登録。委員会は、進入路や水路、農地の現況といった営農環境も確認し、全ての条件を精査する。条件が合えば双方に情報を提供し、直接交渉をしてもらい、お互いが納得すればマッチングが成立する。その後は、農地法3条、または農地中間管理機構法の手続きを進める形だ。


 同事業誕生のきっかけとなったのは就農希望者からの声だった。県の就農準備校である「とやま農業未来カレッジ」の研修生と農業委員が2025年の夏、意見交換会を開催。現在の日本の農業では、すぐに農業を始めたい就農希望者が農地を確保しにくい、という現状が浮き彫りとなり、「農地を使いたい人と、農地を使ってほしい人をつなぐ仕組みが必要ではないか」という考えが生まれた。同市農業委員会ではすぐに着手し議論を重ね、25年末に形となって同事業がスタートした。


 同事業には今年8月時点で7件の利用希望と18件の提供希望が寄せられている。登録者数は増えており、交渉も始まっているという。


 課題も見えてきた。同市農業委員会の担当者は、「『すぐに農業を始められる』『現在も耕作されている』『草刈りなどの簡単な手入れですぐに利用できる』などの農地を求める利用希望者に対して、高齢化や離農などで耕作できなくなった農地の管理や譲渡を希望する提供希望者との間で隔たりがある」と分析する。


 課題が浮かびあがる中、同市農業委員会では、農地を探す就農希望者と離農や規模縮小を考える農業者の双方が、より相談しやすい仕組みにし、地域農業の担い手確保につなげたいと考えている。「求められる農地と提供される農地の条件を正確に把握し、マッチングにつなげたい。農地の現況や所有者の意向が変わることもあるため、適切に登録情報を更新していかなければならない」と担当者は語る。


 長谷会長は今後の取り組みについて、「新規就農者には今まで培った経験やこれから吸収する農業の知識を活かし、農業者として成長してほしい。本事業を利用してもらい相性が良い農地が見つかれば」と期待を込める。

 市内全域の農地が市街化区域の東村山市は生産緑地が多く、独自の“農地バンク”を都内でいち早く設置した。貴重な農地を保全しようと、東村山市農業委員会(鈴木八百造会長、農業委員14人)が中心となりJAや市とともに貸借の意向を収集する。また、同市農業委員会では情報提供活動にも力を入れる。


 東村山市は、東京の北西部に位置する人口約15万人の都市。狭山丘陵の八国山緑地や多摩湖に接した狭山公園など緑豊かな里山には武蔵野の面影が残る。


 市内は農地の全域が市街化区域になっており、農地約132㌶のうち86%が生産緑地に指定され、特定生産緑地の指定率は83%を超える。


 市では、都市農地貸借円滑化法が制定された2018年から4年後の22年1月に、同法を基にした市独自の農地バンク制度を創設。都内でいち早く貸借のマッチングを制度化した。以来、26年6月末現在で同法による同市内の農地貸借は12件、合計面積は3㌶にのぼる。


 同バンク制度は、農業委員会とJA、市の3者が事務局となり生産緑地の貸借を支援。事務局がそれぞれの強みを活かした役割分担を行う。市は制度説明や情報管理を担い、JAは営農指導の機会に情報を集める。農業委員は担当地域に密接な立場として農業者からの相談を引き受けている。


 マッチングの肝となるのは農地所有者(貸付希望者)と借受希望者の条件の把握だ。登録の際、借受希望者は経営概要のほか、農薬の使用、露地か施設かなどの栽培体系の細かな条件を記入する。貸付希望者は貸し付け相手となる者の条件(市内・外、個人・法人、認定農業者かどうかなど)を記入する。それぞれの希望に沿った貸借を実現することで、貸借後のトラブルの防止にもつながっているという。


 同市農業委員会では、情報提供にも力を入れている。


 毎年10月ごろに、市内の経営者組織「東村山市農業者クラブ」やJAとともに、農家座談会を市内5地区で共催。農業委員会の活動報告のほか、農地バンクや補助事業の説明、全国農業新聞と農業者年金の推進も行う。25年度は農業者ら延べ100人が参加した。


 また、市農業者クラブでは、市議会議員も参加対象として市内の視察研修と意見交換会を実施する。農業者間の技術研鑽(けんさん)に加え、市議会との関係強化につなげている。


 市内の農業者自身も情報発信の機会がある。市が22年に導入した地産地消情報発信アプリ「ロカスタ」は、市内の農産物直売所の場所や市産の農産物を使った飲食店の紹介に加え、農業者が直接、市民に情報を発信することができる。スマホなどで見ることができ、「庭先で販売する野菜や果物について、旬の時期に素早く発信できる」と農業者からも好評だ。


 同市農業委員会の石田勉事務局長は「農業者と市民、行政がうまくつながりながら、東村山市の農業の魅力を発信したい」と話す。

 大仙市農業委員会(細谷精悦会長、農業委員24人、農地利用最適化推進委員40人)は、所有者不明農地制度を活用するなどで耕作放棄地の解消・活用や農地のあっせんに努めている。農地パトロールでは市内を八つに分け担当者を設置し効率的な調査などに取り組んでいる。


 大仙市は県の中央部に位置し、水稲を中心に畜産、園芸作物などの生産が盛んな、県内でも有数の農業地域だ。

 同市管内では2018年の所有者不明農地制度の創設以来、特定の地域に限らず制度を活用し、担い手への利用権設定へつなげてきた。特に市南部の大曲・仙北地域では昨年度からこれまで、延べ4・3㌶の農地の活用が知事裁定されている。

 中でも花館・四ツ屋地区では2年間、耕作放棄されていた約1・9㌶の所有者不明農地が解消に動いている。地区を担当していた推進委員の働きかけで地区外の農業法人が参入を決めたためだ。農地中間管理機構を通じ、10年間の利用権設定を受け、畑として活用する予定だ。

 これを受けて、同地区の地域計画は今年5月に2回目の更新が行われるなど、将来設計の見直しが活発に進められている。


 同市の農業委員・推進委員はそれぞれの担当地区で、農地の状況把握や今後の耕作者の調整、地域計画の更新に向けた協議へ積極的に参加。さまざまな形で地域計画の実現とブラッシュアップに取り組んでいる。


 所有者不明農地の確知・活用に必要な取り組みの最初のステップは、農地パトロール(利用状況調査)だ。同市農業委員会では管内を事務局と分室を基準に八つの地域に分け、各地域に農業委員・推進委員を配置し、農地パトロールに取り組んでいる。特に、23年以降は5台のタブレット端末を導入して実施してきた。


 農地パトロールの実施前には検討会を開催し、農業委員・推進委員が問題のある農地などを事前に確認する。


 現地ではタブレット端末から農地の情報を得て状況を確認し、終了後は再度検討会を開いて問題のあった農地の情報を出し合い、解決方法について話し合っている。


 細谷会長は「特にタブレット端末は、導入以降現地での情報確認が素早く確実にでき、非常に役立っている。今後も業務の省力化・効率化を図りながら地域の農業の発展、地域の振興のために努めたい」と話す。

 大分県農業会議(木村房雄会長)は、県と合同で、地域農業の将来像を描く「地域計画」の実効性を高めようと住民参加型の話し合い技法や合意形成手法を学ぶ研修会を開催。今年は7~9月に全3回シリーズで開いており、市町農政担当課や農業委員会の職員、県普及員ら約50人が参加。これまでに2回を終えた。


 地域計画は2024年度末までに県内各地473地区で策定されたが、策定期間が短く地元での協議が十分にできなかったことなどから、現況にほぼ近い内容にとどまる計画が目立つ。


 地域農業を将来へ継続させるには、策定済み計画を練り直す「ブラッシュアップ」が欠かせず、農地の利用意向の丁寧な把握や幅広い関係者を交えた協議の場づくりなど、進め方自体の見直しが課題となっている。


 研修では地方考夢員研究所の所長で全国農業会議所専門相談員の澤畑佳夫氏を講師に招いた。第1回は「ファシリテーター」の役割を学び、付箋を使ったグループ協議を体験。


 第2回は「地域計画の考え方」という原点に立ち返りながら、同計画を進める上での課題をグループでアイデアとして整理し、発表・投票まで行う模擬座談会を実施した。


 第3回では、地域の話し合いをより具体的にイメージできる形で、ファシリテーションスキルを活用するための実践的な技術を身に付ける予定だ。


 受講した職員からは「お互いの話を聴き合うことが大事だと気づいた」「事前準備で話し合いが大きく変わると知った」などの声が上がった一方、「地区数が多いところは進めるのが大変」との声も出た。


 澤畑氏は「地域計画が大事なことは皆分かっているが、どう進めればよいか分からないと感じている。何のために計画を作り、そこへたどり着くまでに何をするのか道筋が見えれば、格段に進めやすくなる」と話す。


 地域計画は農業者や住民が主体となって将来像を描くものだが、それを支える行政の役割は大きい。職員がファシリテーション技術を身に付ければ、地域での協議を円滑に進め、合意形成を後押しできるようになり、計画の実効性が一段と高まることが期待されている。


 あわせて、地域に根差し地域の人とのつながりも深い農業委員や農地利用最適化推進委員の協力も欠かせず、県農業会議は農業委員会と連携し、委員向けの研修機会の創出にも力を入れていく考えだ。


 県は本年度から各市町にモデル地区を設け、ブラッシュアップの進め方を県内全域で横展開する取り組みも始めている。研修と現場実践を両輪で進めることで、「地域計画の実現」を着実に前進させる構えだ。

 美馬市では、地域農業の持続的な発展をめざして市農業委員会(河野耕八郎会長、農業委員19人、農地利用最適化推進委員18人)など関係機関と連携。農地のマッチングを活性化させ、農地利用の最適化に向けた取り組みを進めている。


 美馬市では2025年5月、担い手がいない農地や将来的に耕作放棄地となるおそれがある農地の情報を集約し、地域の担い手に効率的に紹介する仕組み「美馬市版農地バンク」を構築、取り組みを進めてきた。


 同制度は市農林課が実施する農地のマッチングサービスで、農地の「出し手」と「受け手」の調整役となる「地域プロジェクトマネージャー」を配置し、農地利用の最適化を進める。市の担当職員や地域プロジェクトマネージャーが間に入り、農地の紹介や条件調整など農地所有者と耕作者の橋渡し役を務める形だ。


 同制度の利用料は無料。農地を貸したい所有者(出し手)が市へ貸付登録を行う。登録には、農地に1年以上の賃借権などが設定されていないこと、現況地目が田または畑であること、境界が明確であること――などの条件がある。借り手(受け手)が決まるまでは、農地所有者が適切に農地を管理することも求められる。


 一方、借りたい人も借受登録を行い、希望する地域や面積、栽培作物などの条件を登録する。

 市は登録情報を基に双方の意向を調整し、条件が一致すれば、徳島県農地中間管理機構を含めた三者による契約を締結する。


 同制度を支える重要な存在が、地域プロジェクトマネージャーの山田洋一さん(47)だ。


 地域プロジェクトマネージャーは、総務省の制度に基づき、地域課題の解決や活性化を目的に、行政と住民、農業者、関係機関をつなぐコーディネーター役を担う。山田さんは3年間、美馬市地域おこし協力隊で活動後、公募の選考を経て25年4月から同マネージャーに着任。農地の貸し付けについての相談対応や各種登録申請書の作成・サポート、関係機関などとの連携役を務めた。25年度は約8㌶の農地でマッチングが実現、27年度末までに20㌶のマッチングをめざしている。山田さんは「少しでも地域に貢献したいという思いで、一つ一つの相談に丁寧に向き合っていきたい」と熱く語る。


 農業委員会でもこの取り組みに積極的に協力する。農地利用状況調査などで、遊休化している農地の所有者に利用意向調査を行う際などに美馬市版農地バンクのチラシを同封し、制度の利用を呼びかけている。


 河野会長は「耕作放棄地の増加を食い止めるためだけではなく、規模拡大を考える担い手にとっても非常に良い制度だと思う」と語る。

 西脇市農業委員会(宮崎隆会長、77)では、「地域の農地は地域で守る」をモットーに、市と連携して市内52集落で地域計画を策定した。現在は新たな担い手が誕生するなど、計画の実現に向けて活動している。


 同市では、最高品質の酒米「山田錦」や高級和牛として有名な黒田庄牛をはじめ、イチゴ・施設野菜などの農畜産物の振興を進める。しかし、他の地域と同じく、農家の高齢化や担い手不足による耕作放棄地の増加が課題だ。

 宮崎会長は、2016年に地元集落での「人・農地プラン」を推進して以来、「地域の農地は地域で守る」をモットーに農地利用の最適化などの農業委員会活動を進めてきた。

 人・農地プランを推進する中では、300年以上の歴史を誇る愛知県名古屋市の酒造会社が同市に農業法人を設立。市内の農地で山田錦の自社栽培をすることになった。

 また、地域計画の話し合いを進めた際、地元の建設会社が耕作放棄地で水稲栽培をスタートさせることになり、新たな担い手が誕生している。

 宮崎会長は「地域計画で担い手を明確化した。新たな取り組みも始まっており、大切な農地を次の世代に伝えていきたい」と笑顔で語る。


 同市住吉町で建設会社「㈱今村建設」を営む今村(かなめ)さん(48)は、農地利用最適化推進委員の竹谷保夫さん(72)から声をかけられ、24年に新たに「㈱奥畑アグリラボ」を設立。農業参入を決めた。住吉町地区内の耕作放棄地を含めた2・1㌶を同社で取得し、本業の重機を活用して水路などを復旧、25年から水稲を栽培している。

 竹谷推進委員は、「20年以上も前に営農組合が解散し耕作放棄地が問題になっていた。解決するには、まず農地を元に戻す必要があり、建設会社を営む若い今村さんに声をかけた」と話す。

 今村さんは、兄の勝豊(かつとよ)さん(50)や弟の君人(きみひと)さん(45)、建設会社の社員とともに、山間部に広がる耕作放棄地の整備からスタート。長年放置され、大量の土砂に埋もれた水路の復旧や、効率的な農作業を実現するための法面も補修した。 

 今村さんは「現時点で農業だけで採算を取るのは難しい。しかし本業の重機も活用し、兄と弟、社員と協力して、継続可能な農業経営を図りたい」と話す。

 君人さんも「生まれ育った地域のために兄弟と社員で農地を守っていきたい」と抱負を語る。

 同社が農業に参入した経緯には、地域計画の策定を進める際の農業委員会をはじめとした周囲の人々の働きかけが大きい。地域計画の実現に向けて、同市でスタートした「新たな取り組み」に期待が集まっている。

 十日町市の目標地図は、同市農業委員会(村山隆義会長、68)が作成し、「話し合いの場」では農業委員・農地利用最適化推進委員がコーディネーター役を務めた。現在進められている地域計画のブラッシュアップにおいても、見直しに向けた話し合いの場で農業委員・推進委員が中心的な役割を担っている。


 同市は市内を10地域のエリアに分け地域計画を策定した。目標地図は当初から農業委員会が担当。2023年9月に10㌃以上の農業者約6千人に意向調査票を配布した。同年11月末の回答期限には4割ほどの回答率だったが、その後農業委員・推進委員が未回答者を訪問し約8割の回答を得た。


 その内容を地図に落とし込み、地域ごとの話し合いの場を経て、24年11月に素案を策定した。当時の様子は、十日町市農業委員会だより「妻有のきずな」にも掲載されており、委員から「地域の人との話し合いの場が多く参加した。担い手がいるところ、高齢化が進むところと集落ごとで差がある」「担い手が日常の管理が大変で農地をこれ以上受けられないという悲鳴が聞こえた」など、地域の課題がつづられている。


 同市では地域計画のブラッシュアップを、全地域3年サイクルで見直す計画だ。


 25年度は7月から12月までに24カ所で話し合いの場を開いた。そうした中、出席者の多い地域ほど「将来の地域営農に関心があり、危機感を持っている傾向がある」と同市農業委員会では感じていたという。


 見直しの中心は当初の目標地図で将来の担い手が決まっていなかった「白い部分」に色(担い手)を塗っていくもの。村山会長は「10年先よりも3年先の方が農業者も答えやすいと考え3年サイクルにした。話し合いの場では委員が中心となって取りまとめている内容を聞きながら検討していくことで目標地図を完成させたい」と話し合いの場の意義を語る。


 十日町市は本年度、農業委員会の改選年に当たることから本格的な取り組みは8月以降になる見込みだ。新たに就任する農業委員・推進委員には「目標地図は委員が中心となって地域住民と話し合って作成・見直していること」「話し合いの場の会場設定や、司会進行などは地域担当の推進委員が中心となって行うこと」などを引き継ぐことで、取り組みを継続していくことにしている。

 銚子市農業委員会(坂尾清志会長)は、長年農業者年金の加入推進に力を入れている。委員と事務局が連携した丁寧な取り組みで、地域の農業者に農業者年金制度の魅力を伝え、毎年多くの農業者が新規加入している。


 銚子市はキャベツやダイコン、メロンなどが中心の、県内でも屈指の農業産地だ。経営規模が大きい農家が多い一方、後継者の確保や収入の波による不安定さに悩む声も聞こえる。


 「将来への不安を抱えながらも日々の作業に追われ、老後の備えまで考える余裕はなかなか生まれない」「農業者年金の名前は知っているが加入するメリットについては知らない」――そんな農家がいるのも珍しくない。


 銚子市農業委員会はまず「制度を知ってもらうこと」を出発点に据えて加入推進活動を進める。


 同市農業委員会は毎年10月から11月が加入推進月間だ。農業委員・推進委員が加入対象者に戸別訪問してチラシを配布し、制度を紹介。興味を示した農業者には、事務局が後日改めて詳しく説明する方法をとっている。委員と事務局が役割分担し、無理な勧誘はせず、農業者に寄り添うことを大切にして活動を進めているという。


 農業者が農業者年金制度に触れるきっかけは、窓口での何気ない相談から生まれることも多いという。


 農地の手続きなどで訪れた人に対し、農業委員会事務局は必要な情報を一から丁寧に伝えるが、会話の中で農業者年金も自然に紹介することにしている。支払った保険料全額が社会保険料控除になる点など、節税につながる「今すぐ役に立つ情報」を伝える。このため、毎年の収入の変化に応じて保険料を変える農業者が多い傾向だ。一方、過去の制度との違いや注意点も率直に説明する。この姿勢が信頼を生んでいる。


 また、農業委員会事務局は「制度を十分に理解していなければ勧められない」という思いから制度内容を深く学び、相手が納得するまで何度でも相談に応じている。


 こうした積み重ねにより、加入推進活動に力を入れ始めた約20年前から170人以上が新規加入した=グラフ。


 特徴的なのは、手続きのワンストップ化だ。農業者年金と同時に加入する「国民年金付加年金」の書類など、必要な書類はすべて準備。加入者は農業委員会へ一度訪問するだけで手続きが完了する。忙しい農家の負担を減らすひと手間が、制度への安心感にもつながっているという。


 同市農業委員会の農業者年金担当者は「農業者年金は農家の将来を守る良い制度。知らないまま損をしてほしくない」と話す。


 委員・事務局が連携して制度を届ける仕組みが、市内の多くの農業者を支えている。

 美里町農業委員会(伊藤惠子会長、農業委員16人)は、町認定農業者連絡協議会と共催で女性農業者の交流と意見交換の場である「みさとアグリカフェ」を開いている。農業施設の視察や農業者年金の加入推進、農業経営に必要な情報を広めてきた。農業委員候補の掘り起こしも進める。


 美里町は宮城県北東部に位置し、面積が約75平方㌔で、面積の約7割を占める農地は平地にある。水稲を中心に、バレイショやナシが栽培されているほか、約8㌶の広大な敷地にレタス生産工場が稼働している。


 みさとアグリカフェは、町の農業者年金加入者協議会が主催の農業先進地を視察する「女性農業者研修会」と、農業委員会が主催の「認定農業者との意見交換会」が前身だ。加入者協議会の解散や意見交換会参加者の減少で、2023年から二つを組み合わせて開くようになった。


 カフェは、視察研修と意見交換で構成される。午前に町内の農業施設を視察研修。昼食を伊藤会長が経営する菜園レストラン「野の風」でとった後、コーヒーを飲みながら、意見交換を行う。


 第4回のカフェは2月に開かれ、女性農業者18人が参加した。町内にあるみやぎ総合家畜市場で子牛の競りを視察した後、意見交換会に移った。


 意見交換では「市場は身近にあるが行く機会なかったが、初めて競りを見られてよかった」という意見の他、参加者の体験から「都市部の販売会に参加した際、町の場所はどのあたりかを聞かれる」「町内産の小麦と青ジソを使ったクラフトビールなど、魅力のあるものや場所はたくさんあるのでPR活動は大事」といった声もあがった。


 カフェの運営に関わる農業委員の鈴木幸博さんは「意見交換会をカフェ形式にしたことで、話しやすい環境となり、参加者はリラックスして意見を述べてもらえていると思う。いろいろな考えを聞けて参考になる」と話す。アグリカフェでは、将来の農業委員候補者探しと登用も兼ねている。農業委員の繁泉順子さんは過去のカフェ参加者で「これをきっかけに農業委員会について知った」という。


 伊藤会長は「なにかを始めるときには仲間がいると心強い。カフェをきっかけに横のつながりを見つけてほしい」と語る。

 熊本県益城町の赤井地区は、相続登記がされていない農地があることで圃場整備事業が進まない状況だった。担い手への集積・集約が進まず地域農業が崩壊する危機感から、町と同町農業委員会は権利関係の把握や相続人の確認・働きかけなど地道な取り組みを原動力に、所有者不明農地対策を進めている。

  同地区は水稲作を中心とした水田地帯で、935筆、57㌶の農地が広がる。周囲の地区は30㌃区画の圃場整備が完了しており、同地区でも早期の実施が求められていた。

 町では2019年、同地区の圃場整備事業計画に着手。計画の実施に当たって農地の権利関係を調べると、未相続農地が多いことがわかった。農業委員などの地域役員と町が協力して未相続農地の解消に取り組んだが、未相続の期間が長期のため相続人が多岐になる例や、所有者がわからない農地も多数あったことから計画が難航していた。

 計画が再び動き出したのは25年。地域から整備を求める強い要望が出されたのを受け、農業委員会組織が取り組む「所有者不明農地対策事業」で進めることにした。

 町は同年9月、農業委員会、県農業会議、県農業公社などの関係機関を集め、同事業で所有者不明農地の解消を進めることを確認、事業が動きだした。

 具体的な活動は、町が土地登記簿を一括で取得し、農業委員会と連携して相続登記されていない農地の地図など関係資料を作成。それを基に、区長や農業委員など地区の役員が相続人に対して相続登記を働きかけた。地区を担当する井川寿範(としのり)農業委員は、集落協議会の事務局として地域役員による相続人への登記の働きかけを指示するなど、中心となって動いた。

 県司法書士会と連携協定を結んで市町村の取り組みをサポートする県農業会議は、登記事務を行う司法書士との協議を進めた。

 今年2月にはこれら資料が完成し、地域役員が関係者に面談して相続登記をするよう動き始めた。3月には司法書士と関係機関による相続権利者の相談会も開催。現在、相続人全員への働きかけが終了し、司法書士の個別相談が続けられている。

 農業委員会の松本三千輝(みちてる)会長は、「所有者と相続人が高齢化していく中、登記手続きを負担に感じることで、未相続農地が増加していくことが予想される」と将来を見据える。今後について、「現行制度では対応が難しい側面があるため見直しが必要だろう。引き続き、関係機関一体となり地域で未相続農地解消に向けて取り組みたい」と話す。

 山口県の萩市農業委員会(片岡兼雄会長、農業委員19人、農地利用最適化推進委員25人)では、地域農業を支える農地を守るため、耕作者が継続的に農地を耕作できるよう「所有者不明農地制度」の積極的な活用を促している。


制度創設から利用が増

 萩市は県の北部に位置し、水稲をはじめ、国の指定産地でもあるダイコンやトマトなどの野菜、果樹、肉用牛などの生産が盛んな県内有数の農業地域だ。

 2018年に創設された「所有者不明農地制度」は、農業委員会による不明所有者の探索・公示手続きの後、農地バンクへ利用権設定ができる仕組みだ。同市農業委員会でも、農地の利用権設定の更新のタイミングで「所有者が死亡し、相続人は相続放棄をしているようだがどうしたらよいか」という相談があり、これをきっかけに同制度の活用を始めた。

 制度の周知には特に力を入れる。研修会で農業委員・推進委員に説明するとともに、地元の集落営農法人などにも広く知らせる。同制度を利用した農業経営者からは「基盤整備田などの条件の良い農地を継続的に耕作することができてよかった」「この制度のお陰で他の国庫補助事業の活用も継続できるようになった」といった声が上がる。

 同市での制度利用実績は20年度以降、累計12件、25年度だけでも4件に上る。同制度利用の増加は、23年に探索後の公示期間が6カ月から2カ月に短縮、探索範囲が限定されたことで手続きがスピーディーになったことが背景にある。また、探索する際の戸籍の取得が24年から本籍地以外の市区町村窓口でできるようになったことも追い風になった。

 制度の運用に苦労することもある。探索で相続人が判明し、文書で利用権設定を打診しても、農地に対する関心が薄く、了承を得るまで時間を要することも多いという。


所有者不明への未然防止対策も

 同市農業委員会では今後、相続未登記の農地所有者に対して利用権設定の更新などを知らせる際に、「相続登記の義務化」に関する資料を配布する。未然に少しでも所有者不明農地を増やさないようにすることが狙いだ。

 片岡会長は「所有者不明農地が増えると担い手への農地の集積・集約が進まず、近隣の農地にも悪影響を及ぼす。今後もこの制度を活用して農地を守り、地域農業を維持・発展させていきたい」と話す。

 大阪府内で活躍する女性の農業委員と農地利用最適化推進委員で構成する「おおさか農業委員会女性協議会」が今年3月、設立された。府内の女性委員の相互研さんや交流、情報交換・共有を通じて資質向上を進めるとともに、多様な経験を生かして活動を強化。地域農業の振興につなげることが目的だ。本年度は、府内38市町村で委員改選を控えており、同協議会での取り組みを通じてさらなる女性登用の促進と、女性委員の活動の活性化が期待される。


【3度の研修会で つながりを構築】

 農業委員会への女性参画は、男女共同参画社会の推進に加え、地域農業に多様な視点を取り入れる観点からも重要性が高まっている。国の食料・農業・農村基本計画でも農業委員に占める女性の割合について30%の目標が掲げられている。女性委員の組織化で農委活動の活性化や、さらなる登用促進に結びつくと期待が高まっていた。

 こうした情勢を踏まえ、大阪府農業会議では2025年度の事業計画において、女性委員の研修や交流を充実させ、その活動を地域農業の活性化につなげていく方針を位置付けた。

 府内の女性委員らを対象に3度の研修会を開催。農業委員会活動についての講演を行ったほか、学識者を助言者に迎えた意見交換、さらに近隣府県の女性委員組織の視察・交流など活動を重ねた。その中で、女性委員同士のつながりを構築し、意見交換などを通じておのおのの活動に活かしていく重要性について認識を深めた。

 これらの活動を経て、「おおさか農業委員会女性協議会設立総会」で議決、3月に正式に設立した。同会の趣旨に賛同する農業委員会会長や行政関係者をはじめ、会員となる府内女性委員らが見守る中、会長には熊取町農業委員会の大屋満喜委員を選任。副会長3人を含む理事15人が選任された。


【取り組みの共有の場に 熊取町・大屋満喜委員】

 初代会長に就いた大屋委員は、同協議会設立の発起人の1人で、4期にわたり農業委員を務める。息子夫婦と約2・8㌶で営農している。ほぼ毎日自身の農産物を直売所へ出荷する道すがら、担当区域の農地を巡回するなど地域農業・農地の実態にも明るい。

 同町農業委員会にもう1人いる女性委員とは、日頃から何かと連絡を取り合える間がらだ。女性委員が複数いることで相談や連携がしやすくなるという実感があるという。

 また、青年層の農業委員についても今後は複数人単位での登用を進める必要があると考えている。

 同協議会については、「地域ごとの課題や優れた取り組みを学び合う重要な場になる。女性委員同士で共有する機会を多く持ち、それぞれの地域での日々の活動に活かしていきたい」と意欲を示す。

 同協議会では今後、こうした交流や研修などで女性委員の活動の活性化を進めるとともに、府内でのさらなる女性登用の促進を後押ししていくことが期待される。



 津市では「令和版営農会議」を開き、農業関係者を集め、現場の生の声を共有している。津市農業委員会(喜多義幸会長、81、農業委員24人、農地利用最適化推進委員86人)もその一員として関係者と顔の見える関係を作り、解決策を検討している。

 三重県の県庁所在地・津市は、2026年に2市6町2村が合併。面積は東京23区とほぼ同じ711平方㌔あり、県内最大の面積を誇る。広域化で、従来に比べて行政やJAなど関係機関の横の連携の希薄化や農村現場の生の声が聞こえづらくなるなどの課題も出ていた。市は19年から、農業関係者が農村現場の課題や解決策を検討するため、「令和版営農会議」を開催。津市農業委員会も参画する同会議は、内容が新たな農業施策に反映されるなど成果を上げる。

 同会議のきっかけは、前葉泰幸市長との地域懇談会の場で、参加した推進委員からの「県や市はもちろん関係する団体や機関が一堂に会して話し合う場を設けてはどうか」の一言だった。この言葉が前葉市長を動かし、組織の枠を超えて地域の課題に向き合う場として同会議がスタートした。

 会議は、地域性を考え市内12カ所で年2回開く。参加するのは市農林水産政策課、JA、県の農業改良普及センター、担当地域の農業委員・推進委員。話題は、獣害や担い手対策、小区画農地での営農条件悪化など、平場から中山間まで地域が抱える課題についてだ。農業委員・推進委員が日ごろの現場活動で得た情報を会議の場で共有し、解決に向け議論を深めてきた。

 この結果、24年度には「耕作条件不利農地借受奨励金」や「小規模機械導入支援」など、①耕作放棄の防止②持続的な営農体制の強化③獣害・虫害から農地を守る――の三つのテーマ別に、農家を支える七つの支援策で構成する市独自の「営農継続支援事業」が創設された。

 また、同会議が現場で今何が必要かに重点を置いて議論することに対し、農業委員会では、将来の市農業振興に必要なことは何かについて議論する「地域別事業推進会議」も開いている。

 委員の任期3年間に合わせ、1年目は各地域の将来に向けての課題取りまとめ、2年目は市へ取りまとめた意見提出、3年目は提出した意見の政策などへの反映状況の検証などを行っている。

 同市農業委員会では、「引き続き農村現場の声を委員が取りまとめ、地域の実情に即した営農の継続と農地利用の最適化に取り組んでいく」としている。

 

 埼玉県比企地域の女性農業委員・農地利用最適化推進委員で構成される「比企地域女性農業委員・農地利用最適化推進委員連絡会」。改選を迎える農業委員会の市町村長と農業委員会会長を訪問し、女性委員の登用を求める活動を展開。会員の女性委員は連絡会で経験を積み、農業委員会活動を活性化させている。 

 農業委員会の女性の登用は、農業委員会の男女共同参画を促進するための重要な施策だ。2025年に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」でも、農業委員の女性割合を23年度の14%から30年度までに30%にするKPIを掲げている。

 同連絡会は04年4月に比企地域の女性農業委員10人で発足。当時は同地域の9市町村のうち女性農業委員がいるのはわずか5町だった。立ち上げメンバーの小井川敏子さんは「手探りの状態だったが、仲間の輪を広げるために前向きに意見を出し合った」と振り返る。

 連絡会は、農業委員としての資質向上のため、農業関連組織や施設の視察、情報交換を密に行った。また毎年の活動実績を各地の農業委員会会長らに書面で報告し、女性農業委員を増やすための支援を呼び掛けてきた。

 この取り組みは女性農業委員登用の推進活動として、農業委員・推進委員が任期満了を迎える市町村の首長らに直接要請する活動に発展。26年度現在、同地域内8市町村で合計19人の女性委員が在職している。地域の女性農業委員は全体の2割に向上し、2市町では3割を超える。

 山田富子農業委員は「横のつながりを大切に、みんなで楽しみながら続けた結果。サポートしてくれた人たちにも感謝したい」と笑顔で話す。

 同地域では、女性委員の発案により農地集積を促進した事例も多い。

 飛び地の田畑が多く作業効率が悪いことに課題を感じた委員が、地域住民へのアンケートを実施。意向を反映させた農地集積案を策定して、農地中間管理事業の活用につなげた例もある。集積につなげた久保田節子農業委員は「『このままではいけない ! 』という想いで動くことが大切。会の仲間と事例共有して、それぞれの活動につなげている」という。

 同会の会長は1年ごとに交代する。会に参加する多くの女性委員がリーダーとしてスキルアップする機会になっている。地域内には女性が農業委員会会長を務めるところが2市町あるなど、経験を重ねた委員が女性活躍のモデルを示している。

 同連絡会は昨年度、「農山漁村女性活躍表彰」(主催・農山漁村男女共同参画推進協議会)の「女性登用・組織参画部門」で農林水産大臣賞を受賞した。同年に会長を務めた杉田京子農業委員は「地域の声と丁寧に向き合い、課題解決に尽力したい」と先を見据える。

 遠野市農業委員会(藤田優一会長、農業委員18人、農地利用最適化推進委員26人)は、11地区の地域計画の検討会に年2回参加し、「白地農地」の解消に取り組む。新規就農者の受け入れなど、地図で情報を共有し関係者から意見を聞く。


集積・集約徹底し白地激減

 遠野市は岩手県東南部に位置し、柳田國男の『遠野物語』で知られ、カッパや座敷わらしにまつわる言い伝えが残る「民話の里」。早池峰山など山々に囲まれた遠野盆地では、朝晩の寒暖差が育む農作物が実り、ビールの原材料「ホップ」の生産地でもある。

 同市では2025年3月に11地区で地域計画を策定し、将来の受け手が位置付けられていない農地(白地農地)の面積割合が64%であることが判明した。そのため農業委員会では25年から26年にかけた秋と冬の2回、すべての地区でブラッシュアップのための地区検討会を開催した。

 農業者延べ164人と農業委員、推進委員延べ64人が参加した検討会では、地域計画をブラッシュアップさせようと関係者で意見を交換。中山間地域等直接支払の協定を結んでいる集落営農組織を担い手として位置付け、改めて圃場整備地区の担い手への集積・集約を徹底することになった。その結果、白地農地の面積割合は48%まで減少した。


検討会を機に地元の理解醸成

 26年2月に開催された上郷地区の検討会では、目標地図を広げ、耕作者の確認や農地交換による集約化を検討した。

 同地区では地域おこし協力隊の隊員を次世代のホップ農家として育成しようと取り組んでおり、栽培に適した農地を集約化してあっせんするため関係者の意見を聞いた。こうした地域計画の話し合いが、新規就農者・参入者に対する地元の理解醸成にもつながっている。

 検討会に参加した農業委員は「まだまだ参加者が少ない。もっと小さい地域単位での話し合いが必要かもしれない。話し合いの結果を地域に浸透させていくことも重要」と語っている。

 藤田会長は、「水田1~2㌶規模の70代ががんばっている。リタイアしたとき遊休農地とならないように次世代へ引き継ぐため、常に担い手候補を意識した最適化活動を行い、農業委員会の力を発揮したい」と今後の抱負を語った。

 同市では、本年度も2回の地区検討会を予定しており、農地集約アプリを活用したマッチング方法も取り入れるなど、若手農業者が気軽に参加できる検討会を企画している。