雨雲はどのように生まれ、どんな道のりをたどって豪雨になるのかは不明な点が多い。森林総合研究所と熊本大学の研究チームは、1時間ごとに雨を自動で採取できる雨雲地上観測装置「スマートレインサンプラー」を開発した。これは、雨を集めて雨水を分析し、雨雲の動きや水蒸気量などの性質を調べることができる。線状降水帯など大雨や集中豪雨をもたらす危険な雨雲(積乱雲)の特徴を解明する手がかりが得られるという。
同観測装置は、豪雨が発生する時の降雨過程の解明に利用できる水の「安定同位体比(ことば参照)」をを指標に用いて測定。このデータを気候モデルや人工衛星の広域水蒸気情報と組み合わせて分析する。
従来の観測方法では安定同位体比の測定間隔を短縮することが難しく、短時間で変化する豪雨の実態を把握するには限界があった。研究チームは、30分~約100時間の任意の時間間隔で雨を自動採取できる同観測装置を開発。雨は、雨雲に含まれる重い水分子から先に地上に落ちる(降る)ことから、同位体比を調べれば雨雲の動きが分かる。
さらにこのデータを用いて、豪雨をもたらした雨雲が一つの水蒸気から来たのか、複数が合わさったのかなども判別できるようになり、降り始め時点の「雨雲の水蒸気量」を推定できる。
研究チームは今後、熊本市と山鹿市の2カ所に設置したスマートレインサンプラーを使って、冬季、梅雨・夏季による雨雲の水蒸気量の違いなどの観測を続け、より広範囲なデータ収集を進める予定だ。
【ことば】
水の安定同位体比=水には、同じ〝水〟分子でも重さ(質量数)が違う種類があり、その割合のことを水の安定同位体比と呼ぶ。雨や川、地下水などでは、でき方や通ってきた道が違うために安定同位体比がすこしずつ変わる。

「ペピーノ」と聞いてどのような姿や味を想像するだろうか。あまりなじみのない人も多いだろう。ペピーノは、南米のアンデス山脈地帯のペルー、エクアドルが原産のナス科の野菜。メロンや洋ナシに似た味と香りが特徴で、皮をむいて生食するのが一般的だ。アミノ酸やビタミンが豊富で、疲労回復や美肌効果のあるアスパラギン酸はレモンの6倍も含まれる。
東京農業大学では2016年から、髙畑健教授を中心に大学戦略プロジェクトとして「ペピーノプロジェクト」を発足。農大ブランド化に向けて栽培技術の研究に取り組んでいる。わが国へは、果物としてニュージーランドから1983年に導入されたが、栽培技術が確立されず、定着しなかった。そこで髙畑教授らは、「未利用生物資源から作物を創造するのも農学の役割」と一念発起。ペピーノ栽培研究の導入の地でもある神奈川県で、おいしい果実を安定生産するための新技術開発が始まった。
これまでの国産ペピーノは糖度が6%程度と低く、栽培が軌道に乗らなかった。そのため、普及させるには実の高糖度化が求められた。そこでトマトの高糖度化技術をヒントに「リング処理」を開発した。リング処理は、穴が直径4㍉程度のワッシャーに挿し穂を通して挿し芽をするもの。誰でも簡単に高糖度なペピーノを栽培できるように、資材はホームセンターなどでも売られているものを使った。この処理で茎の一部の肥大を抑制。根の成長が阻害され根量が減少し吸水が抑えられ、実の果汁が濃縮。糖度10%以上の高糖度果実が収穫できた。この栽培方法は、根量減少植物栽培方法として特許も取得している。
研究では、ペピーノがトマトのかかりやすい青枯病や萎凋病に強い抵抗性を持つことも確認。ペピーノとトマトは接ぎ木の親和性も高く、ペピーノを台木にしたトマト栽培の研究も進んでいる。
今後の課題は害虫対策という。手間のかからない栽培方法やリング処理の不要な新品種の育成などの研究も進める方針だ。
髙畑教授は、同県厚木市などとペピーノを市の特産品にする活動にも取り組む。「ペピーノの存在を多くの人に知ってもらい、普及していきたい」と熱く語る。

水を循環させて野菜の栽培と魚の養殖を並行して行う生産システム「アクアポニックス」の導入が広がってきた。業界団体である(一社)アクアポニックス推進協会が発足し、国内初の生産工程を認証する「日本アクアポニックス生産物認証」(JAPC)を立ち上げ、生産基準を定めた。新規就農に加え、観光事業や農福連携など地域振興にも貢献する。
アクアポニックスは、陸上養殖と水耕栽培を融合させた循環型生産システム。魚を養殖する水槽と野菜の栽培ベッドをポンプでつなげ、水を循環する。水槽内の魚の排せつ物や食べ残しはフィルターで濾過され、バクテリアのいるタンクに移る。バクテリアが栄養素(窒素やリン酸)に変え、野菜が吸収する。浄化水は、再び水槽に戻るという仕組み。農薬や化学肥料を抑え、排水もなく、安全な生産と計画養殖で収益につながる。
2014年に創業した神奈川県横浜市の㈱アクポニ(濱田健吾代表取締役、48)は、アクアポニックスのパイオニア的企業だ。濱田代表は「発祥地・アメリカを訪れ、2年間、複数の農場で働きながら栽培技術や農園の設計施工を習得した」という。農園のデザイン、事業計画の支援、生産管理支援サービスの提供や教育事業に力を入れる。
同社が設計・施工してきた農園は全国69カ所に上る。IoT技術を駆使して収益化をめざす2千平方㍍規模の大規模農園から、カフェ店併設型の10平方㍍規模の施設まで多様化している。
農福連携で導入例
22年開設の藤沢市にある自社農園「ふじさわアクポニビレッジ」(900平方㍍)では、栽培方法や資材が見学できる。ここではタワー状の栽培ベッドにレタスやバジルが育つ。省スペースを効率的に活用、縦型にすることで単位面積当たり収量を増やした。魚と植物の生育バランス、水質(pH、アンモニア、硝酸塩濃度など)を管理する。地上に葉物野菜、床下にプールを設置してニジマス(1千匹)、チョウザメ(15匹)、錦鯉(20匹)を食用・観賞用として養殖している。
研究開発部の怒和亜里寿さん(27)は、初心者が生産、管理から事業化まで体系的に学べるアクアポニックス・アカデミー(講座)の講師を務める。鳥取大学農学部でアクアポニックスの生産技術を研究した。
怒和さんは「これまで野菜72種類、魚6種類の実証試験を行った。生産した野菜は、えぐみの原因となる硝酸態窒素の数値が低く、食べやすいことが分かっている」と話す。観賞・集客用施設や環境負荷の低減に取り組む企業、障がい者雇用で農福連携、新規事業として収益化をめざす会社が導入するという。
同社は、オフィス街に着目してアクアポニックス産野菜のサラダボウル専門店「AQUAMO salad(アクアモ サラダ)」を東京都港区に開設した。生産・加工・販売を自社で完結、店内でアクアポニックス産のレタス類やハーブが購入できる。
25年、同社は大学や企業と連携してアクアポニックス推進協会を設立。濱田代表が代表理事に就き、JAPCを設けた。国内初の仕組みで安全性と環境への配慮を両立する生産物であることを第三者機関が認証し、付加価値の向上や販路拡大につなげる。
これまでJAS法に基づく有機JAS認証は土壌栽培が原則で、アクアポニックスは対象外だった。JAPCは品質保証、食品安全、環境持続可能性の三つで、生産基準を設定、順守を求める。
今年10月から申請を受け付け、認証事業者のみマークが貼れる。濱田代表は「目的や規模、立地、市場動向、販路に合った形を選ぶことが成功につながる」と話している。

農地台帳のデータを用い、農地集約化率などを即座に自動算出できる「農地集約化率算定ツール」を、(一社)Tannbo(岩手県滝沢市)が今年6月、発表した。
同ツールは、集約化率を計算したい地域の農地台帳データをアップロード。計算条件を指定するだけで即時に集約化されている筆数と面積、集約化率が算出される仕組みだ。また、農地集約化促進事業の集約化加速タイプ(基本タイプ及び大規模集約タイプ)の交付対象面積も自動計算できる。
指定する計算条件は、算出対象地域の都道府県と、農業地域類型(平地・中間・山間)、団地とみなす圃場間の最大距離の3点のみ。Tannboの小野寺直喜代表理事は「誰でも迷わず使える簡便さを重視し設計した」と話す。
データが外部サーバーに保存されない仕様とすることで、セキュリティー面にも配慮した。
開発のきっかけは、農地集約化促進事業の集約化加速タイプ(基本タイプ及び大規模集約タイプ)の交付金申請に必要な、交付対象面積の算定に煩雑さを感じている自治体職員の声だった。
同タイプは、対象期間内に農地中間管理機構を通じて農地を転貸し分散錯圃を解消するなどして、農地を新たに団地化した面積(交付対象面積)に応じ、地域が支援金を受け取れるもの。申請に当たっては、交付対象面積と面積の算出に用いたバックデータが必要となる。
ある自治体では、交付対象面積算出の際、紙の地図を使用し転貸された農地に色を塗り、団地化された農地を判別したうえで、その面積を1筆ずつ足しあげる作業を行っていた。
ツールを活用すれば、事業申請時に必要な交付対象面積やバックデータを即座に出力することが可能となるため、煩雑な作業が一切不要となり、自治体の業務効率化に寄与することが期待される。
ツールは、今年秋ごろまで先行15組織を上限に販売。改良やバグ対応を行ったうえで、順次販売上限を解除する予定だ。
農地集約については、政府が7月21日に閣議決定した規制改革実施計画で「適正な農地利用に当たっては全ての品目で農地の集約化が有効であるとともに品目別の団地化が重要」とされた。農水省は、農地集約率を算定するための算定方法の案を本年度中に作成するなど、数々の措置が行われる。
小野寺さんは、今後公表される算定方法に準じて集約率を算定できるよう、同ツールを改良することも可能としている。

病害虫被害を減らす防除DX(デジタルトランスフォーメーション)サービスを提供する㈱ミライ菜園(愛知県名古屋市、畠山友史代表取締役)は、AIを活用し病害虫発生を予測する防除DXアプリ「TENRYO(テンリョウ)」を開発した。
「AIにより正確な発生予測を農家に提供できれば、最適なタイミングで必要最小限の農薬だけを使用できる」がコンセプト。野菜や果樹、水稲病害虫の予防的防除を支援し、季節外れの高温や長雨など、イレギュラーな条件下でも高い精度を発揮する。
TENRYOはスマートフォンやタブレットで使え、管理画面はパソコンで利用できる。①毎日、病害虫発生を予測②発生マップによる可視化と記録・共有③防除履歴に基づく適用農薬の推奨表示――などが特徴だ。
病害虫からの被害を防ぐには、適切なタイミングでの農薬散布が効果的だ。しかし、近年は気候変動の影響が深刻で発生予測が難しく、これまでの勘と経験だけでは通用しにくくなっている。
TENRYOは過去20年分の気象データとアプリ利用者から集まる発生履歴を照らし合わせ、病害虫の発生を6日先まで予測する。キャベツやブロッコリー、タマネギ、トマトなどのほか果樹にも対応する。
また、イネカメムシの発生危険度も予測。温度や降水量、日照時間などの気象データと過去の発生履歴を調べ、果樹カメムシの予測モデルで培ったAI技術を応用した。
愛知県の実証試験でのイネカメムシ予測では、AIのアルゴリズムが7月上旬にかけて発生リスクの急上昇を検知したため即日、アプリの利用者に警戒や防除を促すプッシュ通知を発信。同月、愛知県農業総合試験場環境基盤研究部病害虫防除室の発生予察情報(注意報)が発出され、イネカメムシの発生数が7月上旬としては過去10年で2番目に多く、通知のタイミングと一致し、整合性が確認された。
個人農家が利用できる「TENRYO(個人農家版)」を7月にリリース。使用量は月990円(税込み)でWebからダウンロードできる。圃場の病害虫発生状況をアプリで月に5回報告すれば無料になる。



















