地域計画の見直し・実践へ新たな視点を-澤畑佳夫氏
将来の農業・農村のため各地で地域計画が作られたが、体制が整わず実行困難という声も聞く。全国農業会議所の澤畑佳夫専門相談員が地域計画見直し・実践へ今こそ取り組むべきこと、支援策活用などについて解説した。
「すでに精いっぱいの現場」相談対応の時
将来の農業・農村のため各地で地域計画が作られたが、体制が整わず実行困難という声も聞く。全国農業会議所の澤畑佳夫専門相談員が地域計画見直し・実践へ今こそ取り組むべきこと、支援策活用などについて解説した。
「すでに精いっぱいの現場」相談対応の時間が増大
国では、地域計画の見直しや実践を後押しするため、来年度も新たな支援事業を検討している。地域農業の将来を考え、地域計画を「つくって終わり」にせず、実現に向けて動かしていくための支援策が用意されることは、自治体にとって大変ありがたいことである。
しかし、ここで考えなければならないことがある。果たして、その予算や制度を活用して、地域計画の実践に取り組もうとする市町村が、どれだけ出てくるだろうか。
現場の市町村職員は、決して仕事をしたくないわけではない。むしろ、目の前にある業務をこなすだけで精いっぱいというのが実情である。通常業務に加えて、新たな制度、新たな事業、新たな会議を増やすことには、「これ以上仕事を増やすことは難しい」「できれば新しい事業はお断りしたい」という思いが生まれるのも無理はない。
だからこそ、地域計画の実践を「新たな仕事」とだけ捉えてはいけない。むしろ、「将来の行政負担を減らすための仕事」という視点が必要なのではないだろうか。
最近、ある市の担当者と話をする機会があった。その中で、遊休農地などに関する相談件数が毎年増えており、2024年度は130件に達したという話を伺った。
さらに、相談を受けてから関係者への確認、現地や農地の状況把握、関係機関との調整、相談者への回答までに要する時間は、平均5・5時間程度だという。単純に計算すれば、130件×5.5時間=715時間である。仮に職員1人の年間勤務時間を約2千時間とすれば、715時間は約35.8%に相当する。つまり、遊休農地などに関する個別相談への対応だけで、職員1人の年間勤務時間の4割弱が費やされている計算になる。
もちろん、すべての相談が同じ時間を要するわけではなく、単純比較できる数字ではない。しかし、ここで注目すべきなのは「相談件数」そのものではなく、問題を先送りすることで、行政の事後対応に要する時間が積み重なっていくという事実だ。今こそ考え方を変える必要がある。
「今やるか、先送りにするか」将来の事務減らす先行投資
地域計画には、農地の将来像や担い手を明確にし、農地利用の方向性を地域で共有する役割がある。それを実践すれば、遊休化する前に農地の状況を把握し、誰が使うのか、どう守るのか、どこを集約するのかを地域で考えることができる。すべての問題を解決できるわけではないが、個別相談が発生してから対応する「事後処理型」の行政から、問題が深刻化する前に動く「予防型」の行政へ転換するきっかけになる。ここに、地域計画を実践するもう一つの大きな意味がある。
「地域計画を実践するために、行政は新たな時間を使わなければならない」。これは事実である。しかし、その時間を単なる追加業務と考えるのではなく、「将来の行政事務を減らすための先行投資」と考えてみてはどうだろうか。例えば、今、100時間をかけて地域の仕組みをつくり、農地や担い手の状況を整理し、地域で話し合い、役割分担を決める。その100時間を惜しんで何もしなかった場合、5年後、10年後には、遊休農地、所有者不明・相続未登記農地、担い手不足、農地の分散などがさらに進み、行政には1件1件の相談、確認、調整、回答という個別対応が押し寄せるかもしれない。
「今、100時間をかけて仕組みをつくるのか。それとも、先送りして5年後、10年後に1千時間の個別対応をするのか」――。
問われているのは、本年度の仕事量だけではない。将来、職員がどのような仕事に時間を使う自治体をつくるのか、行政のあり方そのものを変える判断である。
「担当課だけの課題にしない」実践して変わる自治体めざせ
地域計画は、国から求められているから、補助金の申請ができなくなるから仕方なく実践するものではない。地域農業を守るためであると同時に、将来の行政負担を減らし、限られた職員の時間を本当に必要な仕事へ振り向けるための仕組みでもある。
そのため、地域計画の実践を担当課だけの課題にせず、首長、副首長、農業委員会、関係部署が「将来の行政コストを抑える取り組み」として共有することが重要である。その認識があってこそ、支援事業を活用する意味も明確になる。
国の新たな支援事業を「新しい仕事が増える」と見るのか、「将来の仕事を減らすために今取り組む機会」と見るのか。ここに、市町村の判断がある。そして、その判断こそが、地域計画を「つくっただけ」で終わらせる自治体と、「実践して地域を変える」自治体を分けるのではないだろうか。その選択が地域の未来を左右するのである。
全国農業会議所専門相談員 澤畑 佳夫









