日本の農林水産物・食品輸出のこれまでと今後(前編) 鈴木宣弘氏
わが国の農林水産物輸出額は2025年に前年比1割強増加しても目標額には届かなかっただけでなく、その大半は加工食品で、原材料が輸入農産物の場合も多く「水増し」の側面がある。
また、米国をはじめ他国は「実質的輸出補助金」で国家戦略的に輸出振興
わが国の農林水産物輸出額は2025年に前年比1割強増加しても目標額には届かなかっただけでなく、その大半は加工食品で、原材料が輸入農産物の場合も多く「水増し」の側面がある。
また、米国をはじめ他国は「実質的輸出補助金」で国家戦略的に輸出振興している。こうした「非対称性」に対処しないと掛け声だけでは輸出は増えない。そして、そもそも、「輸出バラ色」論の前に、農林漁家の疲弊が加速し、食料自給率の一層の低下が懸念される中で、ホルムズ海峡の封鎖という事態にも直面し、力を入れるべきは「輸入を国産に置き換える」ことではないか、という議論が必要である。
〇農林水産物・食品輸出の位置付け
まず、日本の農林水産業において、輸出をどう位置付けるか、という点が重要である。
以前から、「日本農業は輸出産業をめざすべき」「国内人口減少に鑑み、輸出でバラ色の未来が広がる」といった、威勢のいい見解も多く、前向きで夢があるイメージとして、政治的なスローガンでも掲げられてきた。
輸出は、確かに、一つの市場であり、それを活用することは否定しない。現に、水産物では、生産量に占める輸出割合がそれなりのシェアになっている品目もある。そのメリットは、輸出による生産者手取りが高いということではなく、「輸出市場があることによって、国内価格の下落を防止できる」という国産の価格維持機能が大きなメリットだ。
リンゴや長いもの輸出で努力して成功している産地もあり、その努力は評価される。しかし、輸出が総生産量に占めるシェアは数%程度の場合が多く、輸出は象徴的な存在ではあるが、輸出が産地の売り上げを大きく支えているという実態はない。「輸出バラ色論」は現実ではない。海外市場では国内より高く売れる場合もあるが、中間に入る商社などの取り分があるから、農家手取りが国内向けと比べて増えるわけではないといった声もある。
〇食料自給率の低さ ~輸入を国産に置き換えるのが先~
インドの人口が中国を抜いて15億人に近づき、新興国の肉や乳製品需要の増加を中心に、中期的な国際食糧需給の逼迫強調は強まることは間違いない。機構変動や紛争のリスクの高まりもあり、食料や生産資材の輸入依存からの脱却が不可欠になってきている。
こうして食料危機のリスクが高まってきていたさなか、米国によるイラン攻撃でリスクが一気に深刻の度合いを増した。ホルムズ海峡の実質的封鎖は、ガソリン価格の急上昇だけでは済まない、国民の命のリスクに直結する深刻な問題だ。農業にとっても、トラクターやコンバインなどの機械や施設園芸ハウスの加温や、原油由来の多くの資材価格も上昇し、輸送コストの上昇もすべての輸入資材に影響し、コスト高が直撃する。
肥料にも影響が出ている。天然ガスに由来する窒素肥料は世界シェア4割が中東だ。日本はマレーシアなどアジアからの調達が多いから影響は少ないという見解は間違いだ。中東産からの輸入先のシフトが起こり、アジア産もすでに前月比5割上昇とのデータもある。
わが国のエネルギー自給率は11%しかない。実質的な食料自給率は、肥料原料がほぼ輸入であることと、種の自給率が野菜以外も10%になるという仮定の下では、9.2%になってしまうと筆者は試算したが、それには、エネルギー自給率の低さはカウントしていなかった。
これをカウントしないといけない事態が発生した。肥料原料についても中東依存のものがあることに加え、石油が供給できなくなれば、コスト高で疲弊している農家の生産は激減しかねない。実質自給率は9.2%どころか、数%に落ち込む事態が現実味を帯びてきた。
食料自給率が低いということは「国産に過剰は存在しない」。「国産は足りていない」のだ。だから、加速している農家の減少に歯止めをかけ、どんどん増産して「輸入を国産で置き換えていく」ことが原則になる。
まず、燃料・肥料などのコスト上昇を価格転嫁できないと農家は苦しい。しかし、価格が上がると所得が減り続けている消費者も苦しい。だから、そのギャップを埋める政策が不可欠で、それは世界の農政の常識といってもいい政策だ。農家はコスト割れせずに増産できる。需給に余裕ができて消費者は安く買える。これで双方がwin-winで、市場を「拡大均衡」に向かわせることができる。これが食料自給率を高め、輸出も伸ばす「実質的輸出補助金」につながる。
わが国では、コメ不足のさなかに、輸出米は8倍に増やすとの目標が発表され、国内のコメが足りていないのに、なぜ、輸出の話が出てくるのかと疑問視された。しかも輸出米には、10㌃当たり4万円(60キロ当たり5千円相当)の補助金が付く。それなら、今こそ、その金額を輸出でなく国内主食米に補助して増産を促して、米価が60㌔1.5万円に下落したら、消費者は助かり、農家には60キロ当たり5千円の補てんで2万円の米価と同等になり、農家もギリギリ持続可能水準だ。
実は、欧米では、国内向け・輸出向けを区別せずに、すべての生産に対して安い売値によるコスト割れを補てんしているのだ。輸出を特定した補助ではないから、見かけ上は、輸出補助金ではなく、輸出に回った分は「実質的輸出補助金」となる。この構造が欧米の食料自給率の高さと輸出増を支えていることを理解する必要がある。








