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ジャンボタニシに食べられない立派な成苗を150㌘播きで 兵庫・稲美町本岡哲司さん

2026年04月24日
     
本岡哲司さん(72)。イネ6品種14.5㌶をほぼ一人で栽培。10㌃当たりの収量は420~450㌔で地域平均ぐらい
田植え直前の54日苗。床土の3分の1は自家製もみ殻くん炭を使っているからか、根張りは抜群
苗の上を歩きながら手でオール14を追肥。1箱チッソ0.5㌘を5回まく。肥料が広がるように、追肥前には必ず入水する
4.5葉苗だが、丈は16㌢ほどに収まっている。抜いてから少し時間がたったので下位の葉はしおれ気味だが、上位の葉はピンピン立っている
不織布(NEWアイホッカ#40)を剥ぐ直前の5~7㌢の苗。3㌢だとスズメが来るので、定規で測って確認(写真提供・本岡哲司)
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薬なしでも被害ゼロ

 近年、全国でジャンボタニシが大問題になっている。田植え後のイネをどんどん食べるので、まるでそこだけ植えていないかのようにイネがなくなってしまい、補植が必要になったりする。タニシの捕獲や退治も大仕事だ。

 兵庫県の瀬戸内地域

薬なしでも被害ゼロ

 近年、全国でジャンボタニシが大問題になっている。田植え後のイネをどんどん食べるので、まるでそこだけ植えていないかのようにイネがなくなってしまい、補植が必要になったりする。タニシの捕獲や退治も大仕事だ。

 兵庫県の瀬戸内地域にある稲美町でも大きな被害が出ているが、本岡哲司さんの田んぼでは被害がまったくないという。何か特別な対策をしているのかと思いきや、地域で一般的なジャンボタニシ駆除剤すら使っていないそうだ。

 「自分が苗を譲った人が、ピンピン硬くてええ苗やわーって言うてくれる。一番タニシの多い田んぼに植えても、全然被害ないって」

 どうやら苗に秘密があるようだ。


150㌘播きの4・5葉苗

 さっそく苗を見せてもらうと、本葉4・5葉を超える立派な苗だ。それでも丈は20㌢ほどで収まり、全体がずんぐりしていて太い。たしかにこれなら、やわらかい葉を好むジャンボタニシは進んで食べようとしないだろう。田植え後もスムーズに活着し、風や除草剤で弱ることもない苗だという。

 ここで驚いたのが、播種量の多さである。普通こういった成苗に近い苗を育てる場合、苗箱内の環境が悪いと生育が進まなくなるので、播種量をグッと減らすことが多い。でも、本岡さんの場合は150~170㌘播き(催芽もみ)。地域の一般的な播種量と同じぐらいだ。

 「以前は80㌘ぐらいの薄播きで、たしかにめっちゃいい苗ができてた。でも、薄播きだと田植機で苗をうまくかきとれなくて欠株がすごい。けっこう面積もあるから、使う苗箱が多いのもちょっと……」

 そこから本岡さんは播種量を増やし始めた。今の播種量なら、苗箱は10㌃当たり12箱ほどですみ(坪50株植え)、欠株もないという。


ゆっくりじっくり、根優先

 でもその播種量で、どうやって長期間育苗するんだろうか。本岡さんによると、ポイントはできるだけ苗に温度をかけず、根っこ優先の生育にすることだという。

 「加温して地上部をびょーって伸ばすと、養分が全部使われて根が伸びない。だから、加温せずにまずは丈夫な根をつくる。その根がうまく養分を吸うから、いい苗が育つんや」

 最初の播種は、サクラのつぼみが膨らみ始めた3月下旬。22度の低温の水で催芽した種もみを播種する。その際床土には、3分の1ほど自家製のもみ殻くん炭を混ぜる。根張りをよくし、もみ殻に多く含まれるケイ酸を効かせるのがねらいだ。

 播種後は、露地プールに苗箱を並べて、雨・鳥対策の不織布をかける。4月はじめ、イネの大きさが5㌢を超えて鳥がついばまなくなったら不織布を剥がし、露地プールに入水。そこから田植えまで、ゆっくりじっくり育苗する。春先の天候は変化が激しいが、基本はそのまま。この時期なら霜はほとんど降りないので、プールの水以外で保温材は必要なし。「ハウスも育苗器もいらんし、プールだから水やりの手間もかからんよ」と、金・手間減らしの側面もある。


50日間で5回の追肥

 本岡さんの田植え開始は周囲と同じ5月の連休前後なので、育苗期間はなんと50日にもおよぶ。普通の育苗は20~30日ほどで、倍近く長い。でも、「育苗日数が30日超えたら植えなきゃいけないわけじゃないし、老化苗になるわけでもない。そもそも老化苗は、根張りが悪い、葉色が淡い、田植え後の活着が悪い苗を指す。つまり、生育不良の苗であり、育苗日数とは無関係」。

 無加温で育苗すると、田植えしやすい苗の大きさ(約20㌢)になるには、50日ほど必要になるのだ。

 でも、長期間の育苗で問題になるのが肥料だ。もみ殻くん炭には肥料分がないので、床土自体の肥料は1週間ほどしかもたない。

 そこで本岡さんは、育苗期間中に5回も追肥している(1箱チッソ0.5㌘ずつ)。そうはいっても、上から化成肥料をパラパラ播くだけなので、そんなに手間はかからない。不織布を剥がすタイミングが1回目で、その後は7~10日ごとに追肥していく。

 肥料を一気にやるといもち病が出やすく、肥料が足りなくなると生育が止まってしまう。根っこを張らせた苗に少しずつ施肥していくことで、150㌘播きでも成苗に近い苗が生育不良にならずにちゃんと育つというわけだ。

(記事執筆・提供 「現代農業」編集部 農文協)


本岡さんに教わって加温を減らしたら、苗が全然老化しなかった

滋賀・野洲市 中道唯幸さん

 僕は有機で本岡さんは慣行だけど、同じ勉強会の仲間。50日苗だけど老化してないなんて普通じゃないよと思って、やり方を教わった。

 ポイントだと思ったのが、分施と無加温。分施は僕もしてたけど、最初の播種分だけは、生育をそろえるために育苗器を使ってる。

 本岡さんの話を聞いて、去年はできるだけ苗に温度をかけないようにした。毎年25度で出芽がそろうまで加温してたけど、20度で1、2粒芽が出るぐらいでやめてみた。

 そうしたら、いつもは35日育苗する間で最後のほうは老化しそうになってたけど、去年は全然ならない。早く植えなきゃっていうプレッシャーがなくて、田植えがすっごくラクだった。もちろん活着もよかったよ。(談)




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