「経験を次の世代へ伝えたい」家族や周囲に支えられた独立就農

2026年08月28日
     
育てている「岡崎おうはん」を抱く笑顔の中山さん
大好評の「風天セット」
野菜や「賀籠沢(かごさわ)地卵」も生産量に余裕があれば道の駅に並ぶことも
就農前に農業委員らと圃場の候補地を回った
就農前の名刺の変遷。自分の就農状況を表す肩書のほかに住居・農地を探していることも記載
新・農業人フェアでは相談員も務める
中山さんの相談コーナーには行列が絶えない
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 「サラリーマンから独立就農」――。在職中の新規就農希望者であれば憧れるフレーズだろう。実際に会社員から独立就農し、現在は新規就農者で作る新農業人ネットワークの副会長、新・農業人フェアの相談員も務める中山(はじめ)さん(45)に、自身の経

 「サラリーマンから独立就農」――。在職中の新規就農希望者であれば憧れるフレーズだろう。実際に会社員から独立就農し、現在は新規就農者で作る新農業人ネットワークの副会長、新・農業人フェアの相談員も務める中山(はじめ)さん(45)に、自身の経験を含め話を聞いた。


「寅さんのように」との思いで命名


  宮城県仙台市から車で30分、「宮城の小京都」と呼ばれる村田町の里山の集落に「自然農場風天」はある。以前は、農業の盛んな集落だったが、今は専業農家として営農しているのは風天のみだ。


 農場の名前は、映画「男はつらいよ」(松竹㈱)の主人公・車寅次郎のあだ名「フーテンの寅」に由来。寅さんのように大らかな、のびのびした野菜を育てたいと願ってつけたという。


 中山さんは、仙台市出身。両親も非農家だ。大学卒業後、Web制作会社や印刷会社での勤務を経て村田町に移住。2012年、30歳の時に新規就農した。現在は約2㌶の圃場で、固定種・在来種の40品目(120種)の野菜を有機JAS認証に準じた栽培方法で栽培する。


 また、純国産鶏の「岡崎おうはん」を180羽ほど飼育。圃場で取れた野菜や県産の材料が中心の自家配合飼料にこだわり、平飼い養鶏も営んでいる。


 圃場で取れた野菜や有精卵は、「風天セット」として仙台市近郊の消費者を中心に宅配で直接販売するほか、飲食店や道の駅にも出荷。育てた野菜や有精卵は、「野菜本来の味が濃い」「卵はすっきりと甘みがある」と消費者や飲食店から好評を得ている。個人宅への宅配の新規の受け付けは見合わせているほどだ。


就農の第一歩は家族の理解


 中山さんは「前職時代はダメなサラリーマンだった。モノづくりは好きだったが、相手のためにならない営業はしたくないと思っていた」と振り返る。


 印刷会社の営業職として勤務しながらふと、農業を営んでいた祖父との野菜を収穫した幼少期の経験や農村の原風景を思い出し、「自分の商品を自分で売りたい」と思うようになったのが就農を志したきっかけだった。


 しかし、新規就農に向けて動く前に話をしなければならない人がいた。当時結婚を控えていた妻の朋子さんだ。サラリーマンはある程度収入が見込めるが、独立就農後はわからない。中山さんは不安な気持ちで朋子さんに新規就農の想いを伝えた。すると「若いうちにやったらいい。私も働いているんだから」と背中を押してくれた。


 中山さんは「妻の言葉がなければ就農できなかった。新規就農には家族の理解が不可欠」と話す。その言葉のとおり、自身と朋子さんの両親にも自身の就農計画を資料を作って説明。理解を得た上で新規就農へ第一歩を踏み出した。


就農時に頼りになった農業委員会


 村田町への移住のきっかけは、(公社)みやぎ農業振興公社が主催した就農希望者対象のバスツアーで、農業経営体を視察する現地見学会に参加したことだ。同町は仙台市などの消費地にも近く、年間を通して気候も穏やかで高速道路も近いことに魅力を感じていた。加えて、中山さんが理想と考えている野菜の販売方法を実践する経営体が、同町で見つかったことも、就農先を決める決め手になった。


 地元ではない村田町での就農で苦労したのは、移住するための住居と農地探しだ。研修先で研修をしつつ、自身で農地を探し、町農業委員会の窓口を訪ねて相談を重ねた。その際、工夫したのが自己PRだ。出身地や家族構成、住居や農地を探していることなどを記載し、自身の人柄や就農の状況がわかるように記載した資料や名刺を作成。農業委員会の会合などでも配布してもらうなどした。そのかいもあり、新規就農への熱意が農業委員会や農業振興公社、町職員、JA職員らに伝わった。就農に必要となる資金助成についての情報は公社が、農地の選定や圃場・住居候補先の視察などは農業委員会や町が支援してくれたという。


 中山さんは、自分を農業委員会や地域の関係者に知ってもらうためのPRツールは重要としつつ、「なにより農業委員会に丁寧に対応してもらい、うれしかった。新規就農の時、農業委員会は頼りになる存在だった」と語る。


今後は新規就農者を支援


 中山さんは、新規就農のときの自身の経験や制度、相談窓口について、自分のような就農希望者の役に立てばとメモを書きためていた。そのメモを17年に「新規就農覚え書き」としてWebで無料公開。さらにその覚え書きを再整理し、今年『新規就農の段取り』を発刊した。


 自身の経験は、県内の新規就農イベントや県立農業大学校で講演。東京で開催された「新・農業人フェア」で相談員として、就農希望者の悩みにアドバイスしている。


 「独立就農はあくまで起業。甘くはない。しかし就農希望者は真剣に取り組んでいる人も多い。地域の大先輩である農業委員の方々もぜひ、彼らの力になってあげてほしい」と中山さんは熱く語った。

 

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