観光客対象に多角経営 雇用環境の充実で地域農業をけん引 久留米市・フルトリエ 

2026年08月28日
     
フルトリエTシャツを着るスタッフ(写真の一部はフルトリエ提供)
2人の子と一緒の美紗さん
ジョイントV字型トレリスを取り入れた観光ナシ園
ブドウは果実袋の色を変える工夫をする
人気の観光イチゴ園
ベビーカー利用者も収穫体験ができる
夏はプール、冬は滑り台になる遊具
カフェのすぐ裏にある託児スペース
賞状を手にする美紗さんと父親の裕(ゆたか)さん(今年2月、都内で開かれた果樹・技術コンクール表彰式)
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 100年以上続く老舗・中村果樹園4代目として新規就農した福岡県久留米市の中村美紗さん(38)は、果樹生産を基盤に季節ごとに果物狩りが楽しめる観光農園と直売所、カフェを融合した体験型店舗「フルトリエ(HPはこちら)」を営む。経営の多角化や女

 100年以上続く老舗・中村果樹園4代目として新規就農した福岡県久留米市の中村美紗さん(38)は、果樹生産を基盤に季節ごとに果物狩りが楽しめる観光農園と直売所、カフェを融合した体験型店舗「フルトリエ(HPはこちら)」を営む。経営の多角化や女性スタッフの雇用環境の充実など地域農業をけん引し、観光客など交流人口を生み出す地域に開かれた果樹園を展開する。


4代目継ぎ  複合経営へ転換


 美紗さんは高校卒業後、愛知県の自動車部品メーカーに勤務した。趣味で始めたキックボクシングに夢中になり、23歳でプロデビュー。しかし、けがをきっかけに選手を断念、トレーナーになった。その後、祖父が体調を崩した際、兄と話し合い美紗さんが家業を継ぐことになった。その際、農業経営を学びたいと、AFJ日本農業経営大学校(東京都港区)に入学。2年間、経営計画を練り就農へ準備した。


 2017年、29歳で帰郷し、認定新規就農者に。果樹園の4代目を継ぎ、ナシ専作から観光農園、直売など複合経営へ転換。8~10月はナシとブドウ、12~翌年5月まではイチゴを提供する。


 18年には直売所、テラス席を備えたカフェを新設。生産と販売・サービス部門に分け、常時雇用者1人を迎えた。22年に法人化して㈱フルトリエを設立、代表取締役になった。フルトリエは「フルーツのアトリエ」の造語。ブランド向上のため、スタッフはロゴマークを用いた特製Тシャツを着用し、商品にシールを貼ってアピールする。


良質な農産物と観光の両立へ


 同社は、販売用園地と観光園地を分け良質な生産と収穫体験の両立をめざしており、あらゆる客層に向け設備を考える。


 従業員らの作業環境向上も考え、樹形にも工夫を凝らす。幸水など栽培する6品種のナシは、低樹高ジョイント樹形を導入。主枝1本とした複数の苗木を続けて接ぎ木し、直線的に仕立てる。立ったまま平行に移動でき、収穫がしやすくなった。台風による落果や傷果を防ぐため、観光園地にはV字型トレリス樹形を導入。主枝は地上80㌢の高さまで下げ、側枝を約60度のV字に斜立させることで、両腕を肩の高さより上げるなどの体に負担がかかる姿勢も無くなったという。


 イチゴ園は車いす利用者も収穫体験できる2段式の高設栽培にした。ブドウは、シャインマスカットを主体に4品種を無核(種なし)栽培で生産。観光シーズンの予約状況を見ながらジベレリン処理のタイミングや、果実袋の色を区画ごとに変えて収穫時期を分散する。「旬のおいしさを味わってほしい」と樹上完熟にこだわって直売。カフェでは旬の果物を使ったパフェやかき氷などのスイーツを提供する。


 また、通路の幅を広げスロープを設置し、トイレなどをバリアフリー化した。ベビーカー利用者、限定的だがペット同伴も楽しめる。夏季には子ども向けにプールも設置。冬季にはイチゴ園内で遊具に変身する。


 30社以上の旅行会社と提携し、バスツアールートの一つに採用されたため、大型観光バスが駐車できる広い駐車場を整備した。海外からの観光客に向け、ホームページでの予約は英語、タイ語、中国語に対応。園内でも外国語を併記した案内板を置き、カフェはキャッシュレス決済を導入。来園者数は増え、25年は約4万人が訪れた。


女性社員のため出勤形態工夫


 美紗さんは、就業環境の整備にも取り組む。


 スタッフの多くは子育て世代の女性のため、自由度の高い出勤形態をとる。定休日や育児休暇の導入、託児スペースの設置と保育士との業務提携、子や孫連れ出勤――などを可能にした。


 地域貢献にも注力する。古民家を活用した民泊の開業で、訪日外国人に滞在型観光を提供。また、耕作放棄園を引き継ぎ、計画的に改植するなど産地の維持・発展を進める。


 この先見性や行動力、経営手腕などが評価され、美紗さんは果樹の栽培技術や経営で優れた功績を表彰する25年度の第27回「全国果樹技術・経営コンクール」(主催=JA全中、JA全農、日園連など)で最高位の農林水産大臣賞を受賞した。


 【経営概況】 中村果樹園=栽培面積375㌃(ナシ140㌃、ブドウ130㌃、イチゴ75㌃、その他30㌃)。労働力25人(本人、両親、正社員8人、パート14人)。収穫果実の販売シェアは観光農園42%、直売46%、カフェ12%(24年)。

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