全国稲作経営者会議 大規模水田経営体モデル調査 (後編) <政策的示唆>


前編の桑原論文では、大規模水田経営体モデル調査の結果の総括と、実践的示唆が示された。その点も踏まえて、後編の本稿では、調査結果から得られた政策的示唆を検討したい。
まずは、調査対象の経営体が、日本全体の中でどのような位置にいるのか、確認を
前編の桑原論文では、大規模水田経営体モデル調査の結果の総括と、実践的示唆が示された。その点も踏まえて、後編の本稿では、調査結果から得られた政策的示唆を検討したい。
まずは、調査対象の経営体が、日本全体の中でどのような位置にいるのか、確認をしてみよう。下図は横軸(対数表示)に規模の指標として作付面積を、縦軸に作業レベルでの労働生産性の指標として労働力1人当たり作付面積をとり、経営ごとにプロットしたものである。農林水産省『営農類型別経営統計』(2023年)と、モデル調査の結果を接続した。
『営農類型別経営統計』の50㌶未満層では、作付面積が大きくなるほど緩やかに1人当たり作付面積が上昇する。一方で、今回の調査対象経営を含めた50㌶以上層になると、曲線は傾きが急に強くなる。つまり、50㌶を超えて規模拡大を進めると、労働生産性の伸びは加速しているのである。50㌶以上層(本稿では「最上位層」と表記する)では、それ以下の層とは異なる経営構造となっていることが示唆され、そこへの規模拡大を促進することが、政策目標になり得るといえる。
最上位層における農地集積の特徴としては、以下の3点が浮かび上がってきた。第1に、圃場整備と大区画化である。調査対象経営の中には、設立や規模拡大の契機として、圃場整備事業を挙げたものが多かった。また、規模拡大によって増加する管理作業の負担を抑制するためにも、農地の集約化と並んで圃場整備による大区画化が重要となっている。
第2に、機械装備への投資と更新計画の存在である。調査対象経営が保有する主要機械の台数は多い。機械装備への積極的な投資が、作付面積に比して労働力を抑制できる基礎となっている。そして、明確な基準に基づく更新計画を保有していることも特徴的である。
第3に、早期の人材確保である。人材確保は規模拡大のための先行投資である。各地で農地市場が供給過剰に転じ、規模拡大のテンポが速まっていく中では、人材を先行投資として確保しても十分にリターンが見込まれる。むしろ、人材確保が遅れることにより、逸失利益が発生することのリスクが大きくなっている。
以上の結果より、最上位層の水田作経営が自律的に経営成長を遂げるための条件整備として、以下の2点の政策的示唆が得られた。第1に、圃場整備の着実な進展である。圃場整備による大区画化は機械装備の効率的な利用を可能にするとともに、管理作業の抑制にも寄与する。農地中間管理事業による農地集約の推進や、農業サービス事業体の育成による管理作業の外部委託の推進などとセットにすることで、最上位層の形成により効果的に機能するだろう。
第2に、設備投資を促進するための税制面での支援である。現在、設備投資促進のための代表的な税制優遇措置は、経営所得安定対策交付金などを農地や農業機械の購入のために積み立て、損金算入や圧縮記帳を認める農業経営基盤強化準備金制度である。生産現場においても評価が高い制度ではあるが、最上位層の投資規模は同制度の範囲を超えつつある。そこで、金融機関から借り入れた資金による投資も、損金算入や圧縮記帳の対象とすることが考えられる。また、外部のスタートアップ企業などと連携して技術開発を行う経営を、研究開発税制の対象としていくことも検討に値するだろう。
著者:日本大学 西川邦夫
2010年東京大学大学院農学生命科学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員を経て、14年茨城大学准教授。25年同教授。26年日本大学教授。








