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中東紛争がもたらす農業サプライチェーンへの影響(前編) 芝原三千代氏 

2026年05月15日
     
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 中東紛争の勃発以来、ホルムズ海峡の閉鎖によって貨物輸送が滞り、肥料や燃料価格の急騰が引き起こされてきた。その後、一時的に閉鎖が解除され、小康状態にあった矢先、海峡は再び閉鎖されて現在に至っている。

 米国における生活で毎日の足となる車のガソ

 中東紛争の勃発以来、ホルムズ海峡の閉鎖によって貨物輸送が滞り、肥料や燃料価格の急騰が引き起こされてきた。その後、一時的に閉鎖が解除され、小康状態にあった矢先、海峡は再び閉鎖されて現在に至っている。

 米国における生活で毎日の足となる車のガソリン代も、それに合わせて上下する。ニューヨーク州の比較的廉価なガソリンスタンドでも一時リッター換算で150円ほどまで下がったものが、再び190円ほどまで上がった。オンライン・メディアなどでは、リッター換算で約250円時代が来ると報道しており、一般市民にはアタマが痛い毎日だ。

 農業経営、食品加工を含む農業サプライチェーンとなると、さらにアタマが痛い。特にディーゼル燃料費の高騰は、生鮮食品や低温流通網を経由して輸送される食品の価格上昇に、最も直接的な影響を及ぼしている。

 今回の中東紛争において、こういった影響はどこまでどう広がるのか? 国連FAO(食糧農業機関)の主席経済学者であるマキシモ・トレロ・クーレン氏が発表した論文、「世界の農産食品産業2026年 中東紛争の波及影響~エネルギー・肥料、貿易および食糧安全保障への影響~」から引用したいと思う。

 前回、各国への食糧安全保障の警鐘となったウクライナ戦争勃発後と、この中東紛争において、どのような違いがあるのだろうか。


【食料・資材両方が枯渇】

 ウクライナ戦争では、食料そのものの直接的な供給と、その生産に必要な資材の両方に、同時多発的な大規模ショックが襲いかかった。それが、世界的な需要が極めて強い冬場の時期と衝突したことで、経済的な余波が一気に広がった。

 ロシア連邦とウクライナは、小麦、トウモロコシ、大麦、ひまわり油といった主要な主食作物の有力な輸出国として、世界の農産食料システムにおいて極めて重要な基盤をなしていた。この戦争により、こうした農産物が市場から即座に姿を消すこととなった。同時に、貿易の混乱によってロシア連邦からの天然ガスや肥料の輸出が大幅に制限された。その結果、他国が生産を拡大しても、供給不足を補う手段が著しく損なわれた。

 その一方で、新型コロナウィルス感染症によるパンデミックからようやく脱却しつつある時期であり、世界的な消費者需要は極めて旺盛な状態にあったものの、21年後半の悪天候で、すでに収穫量が減少していた。戦争が始まる前から世界の穀物在庫はやや枯渇気味であったのだ。

 こうした要因が複合的に作用し、食料価格は予想通りに高騰した。エネルギーや肥料のコスト急騰が、短期的な農業生産の回復を事実上、頭打ちにする形となった。


【エネルギーと肥料が受けたショックはウクライナ戦争以上】

 現在、ホルムズ海峡と湾岸地域で進行中の紛争は、エネルギーと肥料市場に対し、これと同様、あるいはそれ以上の規模のショックをもたらしつつある。

 しかしながら、食料市場における力学は、ウクライナ戦争時とは正反対だ。黒海地域とは異なり、中東地域は主食穀物や油糧種子の主要な輸出国ではない。今回の紛争によって、小麦、トウモロコシ、大豆といった農産物の世界的な直接供給が、生産地において物理的に破壊されたり、封鎖されたりする事態は生じていないのである。

 最も決定的な違いは、湾岸諸国が歴史的に見ても、世界で最も食料輸入への依存度が高い「純輸入国」群であるという点だ。富裕な湾岸諸国は、主食、食肉および乳製品の輸入において、世界最大級の規模を誇る国々の一つである。同地域が紛争や封鎖によって機能不全に陥った結果、世界全体の農産物需要のうち、かなりの部分が事実上消えてしまったことになる。

 現在、湾岸諸国の政府は、数カ月分の消費量を賄えるだけの戦略的食料備蓄を維持している。実際、GCC(湾岸協力会議)諸国は、平時の使用量にして約4~6カ月分に相当する穀物在庫を積み上げてきた。こうした備蓄に加え、高い世界価格であっても食料を購入できるだけの1人当たりの高い所得を有していることが、短期的な食料供給の強靭(きょうじん)性をある程度確保している。


【長期化すれば物価高騰も】

 しかし、その対応がいつまでも続くわけではない。サウジアラビアやアラブ首長国連邦などの国々は、代替策の模索を開始した。一例として、オマーン国内の港湾を利用する、重要物資については、航空貨物による輸入を加速させるなどの動きが挙げられる。しかし、こうした一時しのぎの措置は多大なコストを要し、紛争が長期化すれば食料の入手可能性が悪化し、物価がさらに高騰する恐れがある。

 アジア諸国における食糧安全保障はどうなのだろうか。次回も、マキシモ・トレロ氏の解説を聞きたい。


【芝原 三千代(しばはら みちよ)】

 1990年から在ニューヨーク。ジャーナリストとして雑誌、業界紙誌に執筆する一方、日米交流を促進する非営利団体を運営し、大統領夫人、市長、国連大使などからの感謝状多数。著書に「NY民主主義食」(食糧経済通信社)。

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