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農地集約化に貢献する事業を実証 専用Webアプリで農家の意向マッチング

2026年04月17日
     
アプリのデモ画面
右:小野寺さん 左:黒阪さん
アプリへの意向入力時の画面遷移のイメージ
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 農地の集約化推進に貢献する事業の実証が各地で行われている。専用Webアプリ「農地集約システム」で農家の“耕作したい農地”と“耕作したくない農地”の意向を収集し、両者の意向が合致した農地の交換案を自動で作成。実際に農地交換が実現した自治体も

 農地の集約化推進に貢献する事業の実証が各地で行われている。専用Webアプリ「農地集約システム」で農家の“耕作したい農地”と“耕作したくない農地”の意向を収集し、両者の意向が合致した農地の交換案を自動で作成。実際に農地交換が実現した自治体もある。


農地集約システム開発

 農家の意向を反映させた農地の交換案を、経済学のマッチング理論を用いて作成する手法を生み出したのは、(一社)Ta()nn()bo()(岩手県滝沢市)代表理事の小野寺直喜さんと、東北学院大学経済学部准教授の黒阪健吾さんだ。黒阪さんが行う農地集約の研究を「経済学で地域課題解決」をめざすTannboが、農地コネクト事業として社会実装する。

 2人が農業で課題と感じているのは、農地の分散錯圃だ。農研機構中央農業総合研究センターの研究によれば、圃場分散している大規模水稲経営体の作業時間のうち、10.4~15.5%を移動時間が占める。より一層の農業所得向上のためには、農地集約を進め移動時間を削減し、業務効率化を図ることが有効手段の一つと考えている。

 集約のための農地交換は、耕作者同士の話し合いや行政による仲介などを経て行われるが、当事者や地域が納得できる交換を実現するまでにかかる時間や心理的負担は大きい。

 そこで、交換までの労力を削減しようと、農地集約システムを開発。同システムを使用した東北学院大学による実証事業や、Tannbo主導の農地コネクト事業が、2022年から行われている。


潜在的な意向分かりやすく

 事業実施の際は、契約した市町村が農地台帳のデータを提供し、それを元にシステムが調整される。参加農家への説明を経て、タブレットから個々に意向を入力してもらう。

 意向入力の際は、農家ごとに割り振られるIDとパスワードでアプリにログインし「耕作したい農地」と「耕作したくない農地」を1筆ずつタップし、意向を選択していく=図。

 この作業により「耕作したい」意向と「耕作したくない」意向が合致した農地が、マッチング成立となる。

 交換案の作成は、人による調整を介さず自動で行われる。1筆の農地に複数の耕作希望が集まった場合は、拠点から近い耕作希望者とのマッチングが自動で決まるため、納得感の高い案となる。

 また、どの農地のマッチングが成立したか知ることができるのは、市町村以外は当事者に限られる。知らされるのも成立した事実のみで、実際に交換調整に入るまで相手方に自分が耕作希望者だと知られることはない。加えて、あくまでも案であり、交換を強制されることもない。そのため「安心して意向を入力でき、潜在的な意向が分かりやすくなることもメリット」と小野寺さんは話す。

 昨年度までに、岩手県・宮崎県内の複数市町が、農地集約システムを活用した大学の実証事業や、農地コネクト事業を実施。うち1地区では、作成された交換案により28組の農地交換が実現し、効果は確実に表れている。

 交換案は、実際の農地交換に向けた調整のみならず、市町村による地域計画見直しや、農地中間管理機構による活用も考えられる。


3市町で広域的な集約可能性探る

 昨年度、岩手県紫波町(しわちょう)、盛岡市、矢巾町(やはばちょう)の219人の農家が参加し、農地集約システムにより広域的な集約の可能性を探る実証研究が行われた。広域での実証は初の試みだった。

 耕作したい農地は1013筆、耕作したくない農地は520筆が入力され、70組がマッチングした。さらに、圃場間の移動時間は0.2%減少、団地数は0.6%減少、平均団地面積は0.6%増加し、作業効率が高まる結果となった。

 紫波町産業部農村政策フェローの小川勝弘さんは「農地集約の課題を解決するリーディングプロジェクトとなるのでは」と可能性を感じたという。

 同町では、今回の実証研究以前から、農研機構が開発した地域農業動向予測システムなどを活用し、町の農業が抱える課題を分析。課題解決のため、子実トウモロコシ産地化や労働力マッチングアプリ活用といった、さまざまなリーディングプロジェクトを立案・実施している。平たんな水田地域である水分(みずわけ)地区については、担い手が不足し、35年までに耕作者不在の農地が約75㌶発生すると予測していた。

 地域の農地の受け皿となる大規模水田経営体を育成するためには、担い手への農地集積・集約による生産性向上が必要との考えから、実証研究に取り組んだ。

 小川さんはシステムについて「集約手段として非常に有意義」と話し、今後別の地区での実施も視野に入れている。


ことば

マッチング理論=人と人、人や物との「相性」や「希望」から、最適かつ効率的な組み合わせを導く理論。保育園の入所選考や企業の人材配置などに使われている。


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