全国稲作経営者会議 大規模水田経営体モデル調査 (前編) <総括と実践的示唆>


全国稲作経営者会議では昨年度、水田経営の規模拡大を図る会員生産者に参考情報を提供することを目的として、経営田面積がおおむね100㌶以上の6経営体を対象に調査を行った。調査結果から、経営規模の外形的な指標である①農地②人材③機械施設の拡大の経緯や方針、および④地域社会との関係性⑤省力化や生産物販売の実態――を紹介する。
農地集積は自発的な判断や地域内の離農進行によって緩やかに進行したとする経営が多かった(表の①)。農地集積の促進要因に挙げられたのは、地域社会や農地所有者からの信頼の獲得である。対象経営では、丁寧な圃場管理や条件不利圃場の積極的な引き受け、ブロックローテーションや担い手組織活動などを通じた情報共有などにより、地域社会との関係構築を図っていた(表の④)。都府県で100㌶以上を集積するなら、基本的に他集落への進出(出作)が必要である(都府県で100㌶以上の経営耕地のある集落の割合は3.2%=2020年農林業センサス)。他集落での信頼獲得には時間を要することもあるが、上記の取り組みの重要性に変わりはない。
近隣の営農組織との合併により農地を急拡大した事例も見られたが、合併に至るまでに3年間にわたる協議が行われていた。大規模生産者から農地が放出される(またはされそうな)場合、農地だけでなく組織・人・機械の引き継ぎに関する調整が必要であり、それには一定の時間を要する。
農地を集積するにつれ、農道や水路の管理負担の増大、耕地分散や多筆による作業効率の低下といった課題が現れる。有効な対応策は基盤整備であるが、所有者不明農地や相続未了地がその実施を阻んでいる場合もある。何らかの対応が求められるところである。
人材の確保は、先行採用・先行投資の方針が複数の事例で確認された(表の②)。人材育成は「2年で1人前」を理想とする意見があった。裏を返せば最短でも2年はかかるということであり、農地が放出された際に機動的に対応(集積)するためには、育成期間を考慮しながら人材確保を先行して進めておく必要がある。また、多くの経営は幹部人材と現場人材の2軸で人材育成を進めている。現場人材の育成と労務管理では作業管理のデジタル化やトヨタ式カイゼン、スケジュール管理、生産計画の策定、コストの意識化、チーム制の導入といった工夫がなされていた。
機械・施設投資の計画策定や判断の材料となっているのは、面積当たり減価償却費からの逆算や機械修理費、補助事業などである(表の③)。これらを的確に把握することで適正な投資が可能になる。メンテナンスを徹底することで機械を長期使用し、投資額を抑えることも重要である。規模拡大に伴い投資額は大きくなり、近年の資材価格や施工費の高騰も相まって、多額の設備投資が必要となっている。各経営における計画的な設備投資に加え、制度的な支援も求められよう。
規模拡大といっても、農地や人材、機械施設をただ2倍、3倍…と増やせばよいのではなく、それらをいかに効率的、効果的に利用して高い収益性を実現できるかが重要である。対象経営は直播栽培や米の契約販売に積極的に取り組んでいた(表の⑤)。これらは労働生産性の向上や収益の向上・安定に寄与していると考えられる。
人材管理や投資判断の領域も含め、規模拡大は経営の質的な転換を伴う。ある経営者はそれを「職人農業から事業経営へ」と表現していた。大規模経営者には企業家(アントレプレナー=技術進歩や組織改善、新しい生産物の創造、販路開拓を行う者)であることが求められており、それこそが大規模水田経営の本質的な要素と言えよう。
著者:日本獣医生命科学大学 桑原考史
2008年東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。新潟大学朱鷺・自然再生学研究センター特任准教授などを経て、13年日本獣医生命科学大学講師。20年同准教授。
全国稲作経営者会議では昨年度、水田経営の規模拡大を図る会員生産者に参考情報を提供することを目的として、経営田面積がおおむね100㌶以上の6経営体を対象に調査を行った。調査結果から、経営規模の外形的な指標である①農地②人材③機械施設の拡大の経緯や方針、および④地域社会との関係性⑤省力化や生産物販売の実態――を紹介する。
農地集積は自発的な判断や地域内の離農進行によって緩やかに進行したとする経営が多かった(表の①)。農地集積の促進要因に挙げられたのは、地域社会や農地所有者からの信頼の獲得である。対象経営では、丁寧な圃場管理や条件不利圃場の積極的な引き受け、ブロックローテーションや担い手組織活動などを通じた情報共有などにより、地域社会との関係構築を図っていた(表の④)。都府県で100㌶以上を集積するなら、基本的に他集落への進出(出作)が必要である(都府県で100㌶以上の経営耕地のある集落の割合は3.2%=2020年農林業センサス)。他集落での信頼獲得には時間を要することもあるが、上記の取り組みの重要性に変わりはない。
近隣の営農組織との合併により農地を急拡大した事例も見られたが、合併に至るまでに3年間にわたる協議が行われていた。大規模生産者から農地が放出される(またはされそうな)場合、農地だけでなく組織・人・機械の引き継ぎに関する調整が必要であり、それには一定の時間を要する。
農地を集積するにつれ、農道や水路の管理負担の増大、耕地分散や多筆による作業効率の低下といった課題が現れる。有効な対応策は基盤整備であるが、所有者不明農地や相続未了地がその実施を阻んでいる場合もある。何らかの対応が求められるところである。
人材の確保は、先行採用・先行投資の方針が複数の事例で確認された(表の②)。人材育成は「2年で1人前」を理想とする意見があった。裏を返せば最短でも2年はかかるということであり、農地が放出された際に機動的に対応(集積)するためには、育成期間を考慮しながら人材確保を先行して進めておく必要がある。また、多くの経営は幹部人材と現場人材の2軸で人材育成を進めている。現場人材の育成と労務管理では作業管理のデジタル化やトヨタ式カイゼン、スケジュール管理、生産計画の策定、コストの意識化、チーム制の導入といった工夫がなされていた。
機械・施設投資の計画策定や判断の材料となっているのは、面積当たり減価償却費からの逆算や機械修理費、補助事業などである(表の③)。これらを的確に把握することで適正な投資が可能になる。メンテナンスを徹底することで機械を長期使用し、投資額を抑えることも重要である。規模拡大に伴い投資額は大きくなり、近年の資材価格や施工費の高騰も相まって、多額の設備投資が必要となっている。各経営における計画的な設備投資に加え、制度的な支援も求められよう。
規模拡大といっても、農地や人材、機械施設をただ2倍、3倍…と増やせばよいのではなく、それらをいかに効率的、効果的に利用して高い収益性を実現できるかが重要である。対象経営は直播栽培や米の契約販売に積極的に取り組んでいた(表の⑤)。これらは労働生産性の向上や収益の向上・安定に寄与していると考えられる。
人材管理や投資判断の領域も含め、規模拡大は経営の質的な転換を伴う。ある経営者はそれを「職人農業から事業経営へ」と表現していた。大規模経営者には企業家(アントレプレナー=技術進歩や組織改善、新しい生産物の創造、販路開拓を行う者)であることが求められており、それこそが大規模水田経営の本質的な要素と言えよう。
著者:日本獣医生命科学大学 桑原考史
2008年東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。新潟大学朱鷺・自然再生学研究センター特任准教授などを経て、13年日本獣医生命科学大学講師。20年同准教授。








