地球沸騰化時代 農家の熱中症対策 労働安全衛生総合研究所・時澤健




ファン付き作業服だけではダメ⁉ 打ち水インナーとセットで着よう
重要なのは 「深部体温」
熱中症は、「高体温障害」と呼ばれる病気の中の一つで、体温上昇に起因する体の組織および臓器障害です。短時間で死に至る可能性がある病気であるため、健康な人で
ファン付き作業服だけではダメ⁉ 打ち水インナーとセットで着よう
重要なのは 「深部体温」
熱中症は、「高体温障害」と呼ばれる病気の中の一つで、体温上昇に起因する体の組織および臓器障害です。短時間で死に至る可能性がある病気であるため、健康な人でも発症する可能性があります。死に至らずとも、脳や臓器に障害が残る場合があります。
発症の詳しいメカニズムは十分にわかっていませんが、深部体温(脳や内臓など重要な臓器内の温度)の過度の上昇がポイントであることが明らかになっています。
したがって、深部体温をなるべく上げないこと、仮に上がりすぎた場合は速やかに下げるよう処置することが重要となります。
電動ファン付き作業服は深部体温を下げられない⁉
予防対策は多岐にわたりますが、重要なポイントは上図の7点です。
これらはすべて、深部体温をなるべく上げないことにつながります。このうち⑤は最も直接的です。体も物体、熱いものは冷やせばいいのです。
効果的に体を冷やす一番の方法は、水風呂に入ることです。でも、農作業中はどうすればいいのでしょうか? さまざまな冷却方法が研究されてきましたが、現在のところ作業に支障を出さず体を冷やす方法は、保冷剤入りのクール(冷却)ベストか電動ファン付き作業服(空調服など)の二つです。
しかし、じつはどちらも深部体温が上昇するのを抑える効果はほとんどありません。
皮膚の表面の温度を下げたり、涼しい感覚を生じさせたりする効果はあり、暑さで集中力や注意力が落ちたりすることを防ぎます。
気化熱での冷却を組み合わせる
深部体温の上昇を抑える効果が発揮されない電動ファン付き作業服を、真の熱中症対策とするにはどうすればいいのでしょう? これだけ日本で浸透したので、うまく使わない手はないと思いました。
筆者は熱中症対策について長年研究してきましたが、現在の所属機関に移ってから高年齢労働者の問題にも携わりました。年をとると体力が衰え、体温調節の機能も弱まってきます。最も顕著なのが、汗の量の減少です。汗は蒸発することで気化熱となり、深部体温が上がらないように作用します。量が減れば、当然気化熱も減ります。
その対策を考えていて思いつきました、別に汗である必要はないと。蒸発さえすれば、どんな水でも気化熱を生みます。したがって、あらかじめインナーを湿らせておけば、それが蒸発して汗の代わりになるのです。
実験室内を暑くして、電動ファン付き作業服を着用し、①ファンを回さない場合②ファンを回す場合③湿らせたインナーを着てファンを回す場合――の3パターンで、運動中の深部体温の変化を観察してみました。
すると、①や②ではあまり減少しませんでしたが、③では深部体温の上昇が大きく抑えられました=左図。①では暑い中の運動で体重が1㌔減るほどの汗をかきますが、③だとその半分くらいに抑えられ、貴重な体内の水分を保持できます。ちなみに、インナーを湿らせる水の量は350㍉㍑で、2時間経つと乾ききってしまいます。
身体に打ち水をする
夏に地面に水をまく「打ち水」は、古くから行われてきた涼を求める日本人の知恵です。国際的な学術誌にもそのまま「Uchimizu」と掲載され、伝統的かつ実用的な方法として評価されています。前述したインナーを湿らせる方法は、この打ち水と冷やす仕組みは同じで、地面が身体に置き換わった形になります。
インナーが湿っているなんて不快じゃないの?と思うかもしれません。汗が不快と思う理由は、衣服内に湿気が閉じこもっているからで、電動ファン付き作業服で空気を送れば湿気はどんどん飛んでいくので、想像よりも不快ではありません。しかもインナーはひんやりするので快適感は大きくなります。「打ち水インナー」と名付けたいと考えており、まずは日本で広く使ってもらいたいところです。
今のところ、気温37度・(相対)湿度50%、気温40度・湿度30%、そして気温32度・湿度80%の条件(すべて暑さ指数31・5度)では、電動ファン付き作業服と打ち水インナーの組み合わせ効果を確認しています。それ以上の暑さで効果があるかどうかは、今後検討する予定です。
(記事提供「現代農業」農文協)








