日本の農林水産物・食品輸出のこれまでと今後(後編) 鈴木宜弘氏
水増しの農産物輸出額
2025年の農産物の輸出額が1割強増えて1.7兆円になったが、政府目標額の2兆円には及ばなかった。しかも、内訳は加工食品が5700億円と最も金額が大きいが、実はその原材料は非常に多くが輸入の農産物なのだ。
だから、こ
水増しの農産物輸出額
2025年の農産物の輸出額が1割強増えて1.7兆円になったが、政府目標額の2兆円には及ばなかった。しかも、内訳は加工食品が5700億円と最も金額が大きいが、実はその原材料は非常に多くが輸入の農産物なのだ。
だから、この数字自体が相当に「水増し」されているということで、「増産して輸出すればいい」という議論が勇ましく行われているが、そう簡単にはできないということを私たちは押さえなくてはいけない。
コメについても、もっと増産して1700万㌧作って1千万㌧ぐらい輸出すればいいとか机上の空論を言う人がいるが、そんなことが簡単にできるのなら、誰も苦労はしない。日本のコメの値段は国際相場よりかなり高いし、世界のコメ貿易の主流は長粒種のインディカ米でジャポニカ米(短粒種)の市場はわずかなシェアしかない。だから、おにぎりの需要が増えているのは確かに追い風としても、1千万㌧規模のコメを日本が輸出できるというのが、いかに非現実的な話かということだ。
欧米の補助金漬け輸出と競えるか
そして、先述の通り、他国の農産物の輸出というのは補助金漬けだ。米国の穀物などは、コメもその他の穀物も、安い国際相場の水準で売っても、農家には再生産価格との差額の全額が、国内向け、輸出向けを問わず、支払われる。だから農家は所得が保障されて、どんどん増産できて、安く売って海外市場も広げている。巨額の実質的な輸出補助金が支払われている。その額は穀物3品目だけでも多い年は年間1兆円規模だ。
欧州も、穀物などの販売価格は安くコスト割れだが、多額の補助金が出され、コストの払いきれていない分を支払って残りが所得になる。フランスでは所得に占める補助金率が235%の小麦農家、143%の酪農家の事例もあるが、これが普通なのだ。安く売って海外を含む市場拡大が可能になる。日本には、このような消費者が安く買えて農家には所得を補償する政策が欠如している。
さらに、米国は牛肉とか果物も日本でも一生懸命販売促進していて、スーパーマーケットなどでも米国の農産物の試食会とか盛んにやっているが、あのお金は米国の農家の皆さんが拠出しているお金が半分。それに対して同額を連邦政府が負担している。だから米国の農産物輸出促進費用のうち半額補助になっているわけだ。
政府がそこまでやって輸出を振興しているのが世界の当たり前の姿だから、日本は掛け声だけで何もやっていないに等しい。ただでさえ高い日本の農産物をほぼ補助金なしで売っていくということがいかに大変なことか。「輸出がバラ色」のわけがない。
牛肉の輸出入の非対称性
日本から米国に輸出できる牛肉の低関税枠は200㌧しかないのに対して、米国側から日本が輸入している牛肉の量は二十数万㌧で、実質無制限である。
その他に6万5千㌧ぐらいの「複数国枠」といって、ブラジルやEUや日本らが、そこから自分の国の分として米国に輸出できる分を取ることができることになっているが、そのうち1万3千㌧はイギリス枠にすると最近発表され、日本が取れる分が減ったといわれる。
そもそもの問題はそんなレベルじゃない。200㌧しか独自枠がなくて、さらに5万㌧の複数国枠をみんなで分けるとしても、日本は20万㌧以上米国から輸入している。しかも、輸入が増え過ぎたら制限をかける「セーフガード」も、増えた分だけ基準輸入量を増やすというザルになっていて、実質、無制限だ。
しかも、日本からの牛肉輸出が200㌧を超えたら、26.4%の関税がかかるのに、日本が米国から輸入する牛肉関税を日本は最終的に9%まで下げるという約束をした。前回の第1次トランプ政権のときに、今回と同じように、自動車の25%の関税で脅されて、「何でもやります、許してください」ということで、牛肉と豚肉の関税の大幅削減を行った。
さらに、トランプ氏との最初の約束では、26.4%の関税は15年目に撤廃することに、200㌧の枠も15年目に撤廃することになっていたのをほごにされたのだ。米国は日本に対して、量的にも関税についても制限をなくすという約束をしていたのに、200㌧しかない基礎枠と、イギリスに取られて5万㌧しかない複数国枠をどう分けるか、という議論になっていて、関税も26.4%のままだ。反対に、日本は米国から、今後9%の関税で、牛肉輸入を20万㌧、30万㌧と無制限に増やしていかなくてはいけない。
負のスパイラルに気づけ
この非対称性の解消が不可欠だ。そして、農家の所得を確保しつつ消費者は安く買えて需要を拡大できる差額補てん政策は世界の常識なのに、これに逆行する生産制限をいまだにコメや酪農や砂糖などで続け、国家備蓄も減らし、輸入を増やせと誘導しているが、これは農家の首を絞め、輸入にさらに市場を奪われ、いざというときに国民の食べる物がなくなる飢餓への「負のスパイラル」だということを、ホルムズ海峡の封鎖に直面した今こそ気づかねば手遅れになる。








