将来の日本農業はどこへ向かうか―再認識すべき家族農業の役割を!後編 宮部芳照氏

2026年08月14日
     
宮部芳照氏
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必要な中山間地域の再興


 2020年の総農業経営体数は107.6万経営体で15年前に比べて約46%の減少。その内、個人経営体数(家族経営体含む)は約96%を占めるが、年々減少している。


 将来の日本農業に必要な農業形態は、農地面積の約4割を占め

必要な中山間地域の再興


 2020年の総農業経営体数は107.6万経営体で15年前に比べて約46%の減少。その内、個人経営体数(家族経営体含む)は約96%を占めるが、年々減少している。


 将来の日本農業に必要な農業形態は、農地面積の約4割を占め、傾斜地など地形的に不利な中山間地農業をいかに再興していくかにかかっていると言っても過言でない。


 政府も、これまで中山間地農業の再興に向け種々の施策を講じてきた。例えば、中山間地域等直接支払制度(00年度制定)、中山間地農業ルネッサンス事業(17年制定)、中山間地域農業農村総合整備事業(20年制定)などで支援してきた。なかでも中山間地域等直接支払制度は25年以上経過し、現在も第6期対策に取り組んでいるが、なかなか実効が上がらない。依然として農業従事者の減少や担い手不足が大きな課題として残されている。特に、中山間地農家の減少は止まらず、集落の存続自体すら難しくなっている。 


 今後、これら制度の実効性を高めるには、高齢化と小規模化に十分対応できる仕組みを早急に取り入れるべきだ。例えば、農業生産条件の不利補正単価の物価上昇への対応や各申請手続きの簡素化、農地賃借の農地中間管理事業への統合など鋭意進める必要がある。


 また、10年後に耕作者が不在になる、いわゆる「受け手不在農地」が全国で約3割強にのぼり、7~8割超の地域もあるとの予測がある。今後の日本農業に非常に深刻な課題として捉えるべきだ。地域計画の作成に、受け手不在対策を十分に反映させることが重要である。農家の中には再興への「諦めムード」さえ広がっており心配である。


 特に、中山間地域の再興には、多面的機能の維持などの集落機能の強化と耕作放棄地の増加を食い止めることが喫緊の課題だ。最近のクマなどによる鳥獣被害も主に中山間地農業の荒廃に起因している。また、令和のコメ騒動にしても同地域のもつ食料生産機能への農政の見通しの甘さと日本農業の食料供給体制の脆弱(ぜいじゃく)さを露呈したもので、将来また同様な騒動が起こらないとも限らない。


家族農業に力点を


 ここで改めて、中山間地域の再興に最も適した農業形態は小規模な「家族農業」であることを強調しておく。大規模化しにくい農地の土地生産性の向上や高付加価値作物の生産、さらに柔軟な経営が可能であり、環境変化への適応性も高く、有機農業も推進しやすい。今後の日本農業の構築には「家族農業」を主体にした農業形態が不可欠である。また、安定した家族農業経営をめざすには「一戸一法人」化を一層推進すべきであり、そのためには、政策的・財政的な支援が必要である。


 例えば、専門的知識を要する事務負担の軽減や円滑な事業承継のための条件整備、農業経営基盤強化資金や長期低利資金の借入限度額の拡充などへの支援策が望まれる。さらには、作目や販売先を分散して価格変動リスクを抑えることやスマート農業・環境制御技術を各地域特性に合わせて段階的に導入し、省力化と所得向上につなげることも重要だ。今後の実効ある施策を期待したい。


 地球規模での気候変動と国際社会の流動化が進む中、日本の食料生産体制のあり方が問われて久しいが、国民の命をつなぐ食料をいかに守るか、食料自給率の低迷も含めて今一度、食料の安全保障について再考すべき時期である。より多くの国民が食料生産に直接・間接的に携わることこそが、食料自給への関心を深め、これが「食」に対する身近さと責任を持つことにつながる。ひいては食品ロスの低減にもなる。


 最後に、将来の日本農業が向かうべき方向を示すと、スマート農業技術を駆使した大規模な農業形態のみならず小規模ながら各地域特性に合ったスマート農業技術を活用した「家族農業」主体の農業形態を車の両輪としてバランス良く共存させ、農畜産物の一層の輸出拡大と食料安全保障の強化につなげることが今求められている。


 そのためには、生産者と消費者が適正な農畜産物の価格形成への合意を含め、互いに支え合う強靭(きょうじん)で持続的な日本農業の構築に向けて官民挙げた課題解決が不可欠である。


<筆者プロフィール>


1966年、北海道大学大学院農学研究科農業工学修了。元鹿児島大学農学部教授。農学博士。専門分野は農業機械学、農業システム工学、農作業学。

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