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神奈川県初の山地酪農実践 山北町・薫る野牧場

2026年07月03日
     
小柄なジャージー牛は急傾斜での飼育に向く
牛たちから強い信頼を寄せられる薫さん(写真の一部は薫さん提供)
「おーい、おいでー」 薫さんが鐘を鳴らして呼ぶと、牛たちがおやつ目がけて駆け寄ってくる
すみれ(上)と21年4月に出産したかすみ
牛が食べる草のカロテン色素により、黄みがかった色が特徴の牛乳
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 牛を24時間365日山中に放牧して育てる「山地(やまち)酪農」。神奈川県山北町で県内初の山地酪農を営む花坂薫さん(37)は、牛の力でノシバを育て“災害に強い山”を作り出そうとしている。これまでの取り組みが評価され、2025年度農山漁村女性

 牛を24時間365日山中に放牧して育てる「山地(やまち)酪農」。神奈川県山北町で県内初の山地酪農を営む花坂薫さん(37)は、牛の力でノシバを育て“災害に強い山”を作り出そうとしている。これまでの取り組みが評価され、2025年度農山漁村女性活躍表彰で、農林水産大臣賞を受賞した。


 大野山の頂上付近、東京スカイツリーを優に超える標高723㍍の場所に、薫さんが営む「薫る野牧場」が広がっている。敷地面積は約8.8㌶で、ジャージー牛13頭と和牛の子牛2頭が暮らしている(今年5月末時点)。

 牧場は、全域が山北町共和地区の財産区。16年3月まで神奈川県営大野山育成牧場が運営されていた場所に、18年6月に開いた。

 牧場を開く前は、山地酪農の先駆者といわれる中洞正さんが創業した、なかほら牧場(岩手県岩泉町)で働いていた薫さん。将来山地酪農で独立就農したいと夢みていた15年の夏、大野山育成牧場閉鎖後の跡地の活用についての相談が、なかほら牧場に舞い込んできた。その話を耳にした薫さんは、中洞さんに同行し現地を歩き開業を決意。16年9月に移住した。

 開業までの2年間で薫さんが最も重視したのは、地域住民からの理解だ。財産区である同地を借りるためには、地区の住民約200人全員の同意が必要だった。薫さんは、同地区で森林保全などの活動を行うNPO法人共和のもりに入社。認定新規就農者の取得や青年等就農資金の借り入れ手続き、施設の整備といった牧場の開業準備を進めながら、地区の森を守る活動に取り組んだ。また地域行事にも積極的に参加し、住民との関係を深め、説明会で同意を得て開業した。


 山地酪農と災害に強い山はどうつながるのか――。そのカギはノシバにある。

 ノシバの根は土中で網目状に広がり、深さも50㌢にも達することがある。ノシバが強く根を張れば、崩れにくい土壌になる。

 野山に放たれた牛が背の高い草を食べると、地表に日光が届きノシバが育ちやすくなる。牛がノシバを食べ終わっても、そのふん尿を栄養に、次の春にまた新しいノシバが芽生える循環が生まれる。薫る野牧場では、機会を見てノシバやクローバーの種を播き、強い山づくりを進めている。

 大野山は、富士山などから飛来した火山灰や、スコリア(火山噴出物)が堆積した崩れやすい土壌。「大雨が降ると必ずどこかの斜面が崩れるが、ノシバが根付いた場所はびくともしない」と効果を実感している。


 野外で自由に過ごす牛たちは、1日2回のおやつの時間を楽しみにしている。おやつは米ぬかやビートパルプ、大豆かすなどを混ぜたオリジナルの濃厚飼料。自生する草は、タンパク質の含有量が季節ごとに異なる。栄養が不足すれば次回の妊娠が難しくなったり、乳脂肪分が販売可能な基準に達しない恐れがあるため、おやつで栄養を調整している。


 牛たちの世話など牧場運営全般を薫さんが担い、乳製品製造・配達・草刈りは夫の拓人さん、搾乳や出荷は同じ移住者であるアルバイトの女性2人の手を借りている。今後も、少人数で営める山地酪農を継続するつもりだ。

 「各地の使われていない山でも実践され、珍しくない光景になればうれしい」と薫さんは願う。

 23年、なかほら牧場で研修を受け、静岡県富士宮市で「ふもとのジャージー牧場」を開いた女性に、薫る野牧場で初めて生まれた搾乳牛の「すみれ」と第1子の「かすみ」を含む5頭を譲った。その後も飼育の相談に乗るなど、担い手育成にも貢献している。

 こうした取り組みにより、薫さんは25年度農山漁村女性活躍表彰(主催=農山漁村男女共同参画推進協議会)の、女性ならではのアイデアで経営や活動のステップアップに挑戦する取り組みを表彰する「女性新規事業チャレンジ部門」で農水大臣賞を受賞した。


 山地酪農では、牛からとれる1日の乳量は1頭当たり5~10㍑と、牛舎で育つ乳牛の3分の1ほどだ。

 「山地酪農における牛の適正頭数は、1㌶当たり1~2頭」と薫さんは説明する。すでに15頭が暮らす薫る野牧場では、飼養頭数を増やして搾乳量を上げることは難しい。

 薫さんは、少ない搾乳量でも生計を立てるためには「販路の確保が最重要」であり「市販の牛乳・乳製品より値段が高くても、理解して買ってくださる方の存在がなくてはならない」と力を込める。

 薫る野牧場は、放牧から加工までの一貫経営。牛乳以外にもソフトクリームミックスを販売し、取扱店を着実に増やしている。また、新たな収入源とすべく今年から始めたのが、和牛の子牛の育成だ。生後3カ月まで薫る野牧場で育て、近隣で足柄牛の加工・販売を行う㈱門屋食肉商事へ出荷する。頭数を増やさず収入を得る手段になり得ると、薫さんは期待している。

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