田んぼから社会を見る momo farm 栃木・大田原市 西岡智子氏
大学生の頃、世田谷の馬事公苑にあったTSUTAYAで、玉村豊男さんの『田園の快楽』に出会った。その頃の私はすでに、「田んぼは、お米をつくるためだけの場所ではない」と、どこかで感じていた。
田んぼには、水があり、風があり、た
大学生の頃、世田谷の馬事公苑にあったTSUTAYAで、玉村豊男さんの『田園の快楽』に出会った。その頃の私はすでに、「田んぼは、お米をつくるためだけの場所ではない」と、どこかで感じていた。
田んぼには、水があり、風があり、たくさんの生命がいて、季節が巡り、人の暮らしがある。そして、その営みそのものが、美しい文化なのだと。
けれど、それをどう表現し、どう人に届けたらいいのかは、まだわからなかった。玉村さんは、その「届け方」を教えてくれた人だった。
農や田園を、農業という枠の中だけで語らなくていい。食も、絵も、文章も、建築も、旅も、暮らしも。そのすべてを通して、田園の豊かさを表現し、人へ手渡していくことができる。
本を読み、代官山のお店にも何度も通い、長野では本人にお会いして本にサインをいただいた。
あれから長い年月がたち、私は田んぼでお米をつくり、人を迎え、食卓を囲み、言葉を紡ぎながら、田んぼのある風景と時間、人の営みを次の世代へ残したいと思うようになった。振り返ってみると、あの一冊から受け取ったものは、ずっと私の中を流れ続けていたのだと思う。
そんな玉村さんが、この夏、80年の生涯を閉じられた。訃報に触れ、改めて田んぼから今の社会を眺めている。
お米の価格が大きく揺れている。安くなれば食べる人は助かる。しかし原価を割れば、つくる人は続けられない。では、お米の価値とは、価格だけなのだろうか。
世界を旅した玉村さんは、人と土地がしなやかにつながり、豊かに楽しく生きる姿を見てきたのではないかと思う。そして自らも根を下ろし、ワインをつくり、人が集う場をつくった。
田園に生きることは、豊かで、楽しい。その豊かさを、これからの社会へどう手渡していくのか――。玉村さんから受け取ったまなざしを胸に、田んぼから社会を見る。
◇次回は10月9日付








