石油王の12カ月 小泉ファーム 千葉・成田市 小泉輝夫氏
2026年、4月。種まきの準備で腰を伸ばす暇もないこの季節、日本の農業界を「三菱マヒンドラ農機、廃業」という激震が駆け抜けた。私たち農家にとって、農機メーカーは単なる機械の売り手ではない。二人三脚で苦楽を共にしてきた、切っても切れない相棒
2026年、4月。種まきの準備で腰を伸ばす暇もないこの季節、日本の農業界を「三菱マヒンドラ農機、廃業」という激震が駆け抜けた。私たち農家にとって、農機メーカーは単なる機械の売り手ではない。二人三脚で苦楽を共にしてきた、切っても切れない相棒だ。その片足が突然失われるということは、業界の地図が根底から描き換わってしまうほどの重大事である。さらに追い打ちをかけるように、海の向こうではアメリカによるイラン攻撃。燃料代の行方を案じ、誰もが顔を曇らせる春となった。
成田の石油王
さて、私はSNSで「成田の石油王」と呼ばれている。だが実体は、成田の空の下で泥にまみれる一人の水稲農家にすぎない。なぜ石油王なのか。それは春の「暗渠」作業に由来する。
田んぼの排水を良くするために土を掘り、パイプを埋める。すると地中から驚くほどの水が噴き出してくるのだ。泥まみれでその水を見つめながら、私はいつも思う。「この水が、もしも原油だったなら…」。今頃は成田の原野に金ピカの宮殿を建て、ドバイの富豪と肩を並べていたはずだ。そんな、農家なら誰しも一度は抱くであろう切実な夢想が、いつしか私の異名になった。
米と格闘し米を育てる
現実は甘くない。地中から出るのは一銭にもならない冷たい水。相棒であるメーカーの不在に戸惑い、世界情勢が荒波を立てる中で、われわれはこの「ただの水」と格闘しながら、高い燃料を買い、必死にトラクターを回している。
それでも、春が来ればエンジンをかける。メーカーが変わろうと世界が揺れようと、田んぼは待ってくれないからだ。暗渠から水を絞り出すように、粘り強く希望を絞り出して、今年も米を育てる。
これから1年、このコラムでは「石油王」になりきれない私の、泥臭くも愛おしい農業の日々をつづっていこうと思う。まずはこの激動の4月、皆で生き抜こうではないか。
◇次回は5月1日付








