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連載

つれづれ農日記

石油王の12カ月 小泉ファーム 千葉・成田市 小泉輝夫氏

2026年06月05日

 6月、田植えが終わる。あの息をのむ忙しさが(うそ)のように、田面に静寂が戻る。とはいえ農家に休息などというものはなく、初期除草に水管理、畦畔の草刈りと、地味だが決して手を抜けない作業が続く。水1㌢の差が収量を左右する。この季節の農家は、

 6月、田植えが終わる。あの息をのむ忙しさが(うそ)のように、田面に静寂が戻る。とはいえ農家に休息などというものはなく、初期除草に水管理、畦畔の草刈りと、地味だが決して手を抜けない作業が続く。水1㌢の差が収量を左右する。この季節の農家は、田んぼの水面をじっと読む、無口な哲学者のようなものだ。

 そんな張り詰めた春の終わりに、志を同じくする仲間と「さなぶり」を敢行するのがわれわれの流儀である。昨年の舞台はS南ファームのH本さんのライスセンター。コンプライアンス的にはいささか微妙な、突撃アポなしジンギスカンだ。従業員の皆さんには事前に根回し済み。当のH本さんだけが何も知らない。

 七輪(しちりん)に炭をおこし、煙が上がり始めたその瞬間、ライスセンターの向こうからH本さんが現れた。目が点とはまさにこのことで、のけ反りながら笑い転げ、こちらへ走ってくる。最高のリアクションと笑顔をありがとう! 張り詰めていた春の疲れが、その瞬間に一気に溶けた。


 肉の焼ける煙の中、話題は米価へと流れた。昨年の6月を思い出す。備蓄米放出、コメ不足報道、農家が久々に味わった「米バブル」の高揚感。あの春は確かに甘かった。

 だが今年は違う。民間在庫は積み上がり、市場には暗雲が漂う。それでも農家の中には「暴落はないだろう」との論調が少なくない。ラチェット効果――。良い経験をした者は、無意識にその水準を基準にしてしまう。

 しかし在庫の数字は正直だ。過去の歴史をみれば、大きな下落は必然とも読める。危機感が希薄なまま夏を迎える怖さを煙の向こうに感じながら、私は黙って肉をひっくり返した。

 水管理は繊細だ。張りすぎても、切らしすぎても、稲は応えない。米価もまた、感情ではなく現実に従う。楽観という名の水を張りすぎた田んぼに、秋風は容赦しない。

 それでも今日も田んぼと向き合う。H本さんの笑顔と残り火を胸に抱いて。

◇次回は7月3日付

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