「ミズ」と向き合うわたし 小説家・瀧羽麻子
銀座に知人の個展を見にいった。
画廊を出た後、街を歩いた。この界隈に来たら必ず立ち寄る店がある。ハイブランドの路面店や老舗デパートが軒を連ねる大通りを、人々が優雅にそぞろ歩いている。裏路地に入ると、高級クラブの入ったビルの隣に
銀座に知人の個展を見にいった。
画廊を出た後、街を歩いた。この界隈に来たら必ず立ち寄る店がある。ハイブランドの路面店や老舗デパートが軒を連ねる大通りを、人々が優雅にそぞろ歩いている。裏路地に入ると、高級クラブの入ったビルの隣に、知る人ぞ知る文壇バーが……あるのだろうが、残念ながらわたしは行ったことがない。
歩くこと5分、目的地に着く。
秋田県の物産を扱うアンテナショップである。県内の蔵元の日本酒が豊富にそろい、いぶりがっこや稲庭うどんなど特産品も目白押しで、いつ来ても心躍る。迷いに迷って秋酒の四合瓶を2本選び、レジに並ぼうとしたとき、見慣れないものが目に入った。思わず駆け寄る。
ミズだ。
ウワバミソウとも呼ばれる。大蛇が棲んでいそうな薄暗く湿った水辺に群生するのが名の由来らしい。春限定の山菜も多い中、初夏から秋まで食べられるのがありがたい。
家に帰り、さっそく下ごしらえにとりかかる。
葉は捨て、ひょろりと細長い茎の表面の皮を剥く。ごく薄く、しかも半透明なので、ちゃんと剥けているのかわかりにくい。細い茎は剥いているうちに食べるところがなくなってしまいそうで、慎重に手を動かす。
気づけば、いつのまにか、数十本分の薄皮を剥き終えていた。小一時間が経っている。
さっと茹でると、くすんだ暗緑色が鮮やかなエメラルドグリーンに変わる。このままおひたしにしても、炒めてもいい。わたしの好物は、独特の粘りけを楽しめるたたきだ。刻んですり鉢に入れ、丹念にすりつぶす。
気づけば、いつのまにか、すり鉢いっぱいにねばねばのペーストができあがっている。
ミズと向きあうと時間を忘れる。しなやかな茎がぐんぐん伸びてわたしの頭の中を埋め尽くし、ねばねばした緑色の渦に意識をからめとられ、いつのまにか、山深い渓流のほとりに、わたしは茫然と立ち尽くしている。
◇次回は10月23日付








