内野席で味わう生ビール 小説家・瀧羽麻子
世間はサッカーW杯で盛り上がっているようだが、わたしは全然詳しくない。かわりに、日本のプロ野球の話をしたい。
といっても、実は、わたしは野球にも全然詳しくない。ただ、前々から神宮球場には一度行ってみたかった。さる大作家の随筆に、神宮球場で
世間はサッカーW杯で盛り上がっているようだが、わたしは全然詳しくない。かわりに、日本のプロ野球の話をしたい。
といっても、実は、わたしは野球にも全然詳しくない。ただ、前々から神宮球場には一度行ってみたかった。さる大作家の随筆に、神宮球場で試合を観戦しつつビールを飲むという印象的なくだりがあるのだ。ごく一部の席を除いて屋根がなく、大空の下で風を感じながらビールを飲めるらしい。想像しただけでもうっとりする。
先日チケットをいただく機会があり、念願がかなうこととなった。6月3日午後6時からのセ・パ交流戦、一塁内野席だ。と得意げに書きつつ、セ・パとはなにか、内野席がどこなのか、同行者に教わるまで知らなかったわたしだが、ともかく、わくわくして当日を待った。
が、数日前から暗雲がたちこめた。ただの雲ではない、大型台風6号の強力な雨雲である。晴れた日のビールに屋根は邪魔だけれど、こうなってみると俄然ドームが恋しい。
当日の朝、激しい雨音で目が覚めた。天気予報によれば夕方にはやみそうだが、この嵐ではグラウンドもずぶ濡れだろう。はたして試合はできるのか。10分おきに予報を確認し、仕事はまるで手につかず、4時頃に空が明るくなってきたときにはすでに一戦終えた気分だった。
午後6時、定刻に試合開始。さんざん気をもんだ分、内野席で味わう生ビールは格別だ。夕焼け空も美しい。球場名物だという唐揚げも(ビールがいよいよ進む)、選手ごとの応援歌も(歌詞が独特で気が散る)、ビジターチームの熱狂的応援も(外野席で大波がうねっているように見える)、目新しく楽しく堪能する。そして、0‐0で迎えた6回裏、ホームラン!
大喝采のスタンドで、周囲の観客がおもむろにミニサイズの傘を取り出し、振りはじめる。皆、笑顔だ。これもまた神宮の名物らしい。夕闇の中、雨あがりの球場を無数の傘が埋め尽くし、きらきら輝いていた。
◇次回は7月24日付








