お盆と警備ロボットと私 小説家・瀧羽麻子

2026年08月28日

 世間はお盆休みなのに、原稿を書いている。今さら、と読者の皆様は思われるだろうが、このコラムの執筆から掲載までには10日あまり時差がある。


 お盆や年末年始などの休み明けに原稿の〆切が設定されることは多い。編集部としては効率的だろうけれど、こ

 世間はお盆休みなのに、原稿を書いている。今さら、と読者の皆様は思われるだろうが、このコラムの執筆から掲載までには10日あまり時差がある。


 お盆や年末年始などの休み明けに原稿の〆切が設定されることは多い。編集部としては効率的だろうけれど、こっちは休めない。仕事なのでしかたないとはいえ、正直おもしろくない。おもしろくない気分でおもしろい原稿は書けない。


 休憩がてら昼を食べに出た。個人経営の飲食店は軒並み閉まっている。おもしろくない。駅前の複合ビルまで足を延ばす。上階はオフィスで日頃は勤め人が多いが、今日は家族連れでにぎわっている。皆楽しそうだ。


 通路で子どもが追いかけっこしていると思ったら、相手は警備ロボットだった。背丈は1㍍ほどで、頭部の監視カメラを回転させ、ただいま巡回警備中です、と告げながらフロアを自動走行している。はじめて見たときはびっくりしたが、今では会えるとうれしい。子どもばかりでなく外国人観光客にも人気で、よく写真を撮られている。


 食事を終えて帰ろうとしたら、再びロボットと出くわした。通路の先からゆっくり近づいてくる。わたしがごはんを食べている間も、彼は休みなく働いていたらしい。健気だ。おつかれさま、お互いがんばろうね、と心の中で話しかけたそのとき、突然ロボットがとまった。


 まさか心の声が通じたのか。あっけにとられているわたしの前で、彼はくるりと90度方向転換した。真正面には、トイレの入口がある。

 ロボットは迷わず前進し、女子トイレに消えた。いよいよあっけにとられる。え、彼じゃなくて彼女だったの?ていうか、トイレに行くんだ!


 中をのぞいてみると、入ってすぐの壁際に、従業員用の扉があった。その向こうに去っていく彼女の後ろ姿を、わたしはそっと見送った。


 実話である。今回ここまで書きあげられたのは、彼女のおかげだ。いい仕事をしてくれた。次に会ったらお礼を言おう。



◇次回は9月25日付

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